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静天遠く  作者: トカジキ
17/17

新たなる秩序 二

 城壁を子供が一人、走り回っていた。

 その後をエルブが必死で捕まえようとしているが、捕まらない。

「和約。ですか」

 隣にいたレブンが、呟いた。

「まだ、提案だがな。帝国側も、相当揉めたらしい。最後は、宰相の一声で決まった」

「よく踏み切りましたね」

「もう疲れているんだ。戦争に。これからは、戦争による富から、純粋に国を富ませる時代になるかもしれないな」

 ようやく子供を捕まえたエルブは、そのまま抱き抱え、こちらに歩んできた。

「我々軍人はもう必要のない時代だと?」

「不要。ではないだろう」

 数週間前、帝国が突然和約を申し入れてきた。

 昔の対立のことは忘れ、争いをやめる。昔は熱狂的な信者達がいて、それは即座に撥ね退けられただろう。

 時代は変わった。信仰心の厚い者はいるが、狂信的な信者などいない。百数十年にもわたる戦争が、信仰を忘れさせた。正確に言えば信仰を忘れたわけではない。

 宗教は、心の拠り所となるだけでいい。ユトレヒトは、そう考えていた。

「副将殿。そう難しい顔をなさらずに笑っていればよいではないですか」

「私に何で笑えと?」

「おやおや、兄と同じことを言うんですかい。何でもいいですから、笑ってればいいんですよ」

 どうしたもんかな。そう考えていると、村を廻っていた隊が帰ってきた。

「エルブさん、ネイが迷惑をかけませんでしたか?」

「なに、子供の扱いにはなれてる」

 ネイは、リルが村で拾ってきた子供だった。その村の村人はネイ以外全員殺されていた。親が殺されているのを目の当たりにしたらしく、しばらく口がきけなかった。

 娘は、リルが自分が面倒を見ると言った。どうやら、本気らしい。

「そう言えば、エルブには妻子がいたな」

「ええ、ほとんど別れたも同然ですがね」

 エルブが、苦い笑顔を作った。

「いや、いるだけでいい」

 旧グリナッドの西側に、新たな城郭が造られた。その城郭は、レクトレッジと名付けられた。

 戦争になれば、こことラージダルで二重の守りとなり、和約が成立すれば、皇国の玄関となる。いずれにせよ、都合の良い場所だった。

「ところで、大将殿の意志はどうなっているのですか?我々はまだ聞かされておりません」

「和約には、賛成だ。多分、和約となるだろう」

「どうしてそう言えるのです?」

「これは、格好の機会なんだ。西に対する」

「リヴァーム神国」

 軽く、頷く。

「あそこは凄惨を極めているらしい。いくら兵がいても足りない状況だそうだ」

「誰かが、あっちに移されるかもしれませんね」

「そうなるかもな」

 誰がそうなっても、おかしくはなかった。


 裏を隅々まで、見て回った。

 巨大な、闇だった。巨大なだけでなく、素速く動く。

「帝国と皇国の和約が成立した。私達には、何の関係もないが」

 小太りの男が、振り返った。

「国内に目が向けられるのでは?」

「しばらくは、向かない」

「しばらく。とは?」

「この和約に猛反対している官僚や軍人がかなりいる。近衛万軍のラスリーを筆頭としてな」

「それがこの国を乱すと」

「その可能性が高い」

 スレイは、出された茶に手を伸ばした。

「どう思っている?スレイ」

「何を?」

「国の裏側をだよ」

 この男に声をかけられてから、

「興味深い部分はいくつもあった」

 ロート達に誘われてから、半年の間、帝国の、この大陸の裏を見て回った。様々な場所を廻ったが、ほんの一部にすぎないらしい。

「この計画が発動するのは、まだ先か」

「そうだな。その間に、もっと物資を貯めねばならん」

「だが、同時に、難しくなるな」

「どうしてだ?」

「ノークだよ。そのラスリーが叛旗を翻したとすれば、鎮圧すると同時に、中央に出てきて、軍にいる屑どもを一気に追い出すんじゃないか。そうなると、隙がなくなる」

「成る程な。そのような考え方もあるか。だが、有能な奴が出てくるとは限らん」

 そう言ってロートは、立ち上がった。

『静天遠く』終わり

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