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静天遠く  作者: トカジキ
13/17

渦 三

 前方に、千の騎馬。見事な横隊を組み、駆けてくる。

 リルは負けじと得物を振るい、手綱を握りしめた。

 ぶつかる直前、リルの騎馬隊は矢の形となっていた。その形のまま、敵を二つに割った。徒も飛び込み、乱戦となった。

 もう一度敵を割ろうとした時、丘の上で声が挙がった。逆落とし。百騎ほどだか、ついさっきの騎馬隊とは全く違う圧力だった。

 三百で受け止めようとし、素早く小さく固まったが、逆落としをかけた騎馬隊に、分断された。その騎馬隊はそのまま味方の徒をも分断し、勝負は決まった。

 悔しさが、こみ上げてくる。唇を噛みしめる。これで何度目だろうか。

 常にあの騎馬隊に注意を払っても、どこからか現れ、分断される。正面からぶつかり合ったこともあるが、見事に負けた。

 アルヴァーノとレブンがいる、丘の上に登る。

「さすがはガクレンの騎馬隊だ。よくわからんうちに勝負が着いてしまった」

「リルの判断も良かったんでがね。素早く騎馬をまとめたとこが。しかし、相手が悪かった」

「戦場で、一番会いたくない騎馬隊ですよ」

 エルブや他の将校も登り、最後にガクレンが登ってきた。

「見事だった。ガクレン」

 ガクレンと呼ばれた男を初めて見た時は、驚いた。

 完全な黒髪黒眼だった。両方とも黒いのはこの大陸では珍しく、魔の象徴という教国が作り上げたおかしな偏見があった。「実戦であそこまで上手くいくかはわかりません」

「だが、訓練でやれないことは実戦でもやれない。今回出来たのならば実戦でもやれる」

 帝国は、グリナッドにトルナスを置いた。他の指揮官と比べると、どこか戦に消極的だった。言うなれば、武官の中の文官。統治を第一と考えてるとすれば、適任と言えた。

 皇国への侵攻は、ノークが指揮すると考えられていた。予想兵力は少なくて八万。多くて十七万。しかし皇国にはクラウクセスと並ぶ難攻不落のラージダル関門があった。関門の兵力は最大で十万。いくらでも耐えきる自信が、皆にあった。

 問題は、アリアス島だった。帝国に陥とされて以来、海岸線の守りに不安が絶えなかった。

「皆、野営地に帰るぞ」

 野営地は山の麓にあり、水が湧き出ていた。

「暇そうだな、リル」

 木のそばに座り、一人で火を眺めていると、ガクレンが声をかけてきた。

「ええ、もちろん暇ですよ」

「おまえが、俺の逆落としに反応出来たことには驚いた」

「偶然ですよ。偶然視界に入った。それだけのことです」

「それが凄いんだ。おまえが偶然と思っていても、あれは普通の人間では反応できない位置から俺はでたんだ」

「目測を誤ったんでしょう」

「いや、何度もやったが一度も反応されたことはない」

 ガクレンは、海から来たらしい。嵐か何かで船が沈み、皇国に流れ着いたらしい。

 本人は、何も覚えていないと言った。どこの国にいたのか、どうして船に乗っていたのかも。

 多分嘘だろう。本人は全て知っている。勘だが、確信していた。

 なぜ隠す必要があるのか。そんなことに、興味はなかった。

 グリナッドの昔の仲間達が、急に懐かしくなった。共和国に流れ着き、遊撃塞を任されたと聞いたが、詳しいことまでは知らない。

 クラウクセス城は、未だに不落らしい。

 皇国でも軍人になったものの、リルをあまり好ましくない目で見る者もいた。グリナッドにいた頃はそんなことはなかった。

 皆で皆を認め合い、認め合いながら皆で進む。リークの人をまとめあげる巧みさもあったろうが、人の目を気にすることなどなかった。

 今は、偶に冷ややかな目を向けられる。

 それでも、戦い続けるしかなかった。戦うことしかできない。

 今は配下の軽騎三百を強くすることだけを考えている。

「リルは、家族がいるのか」

 焚き火が消えかかる。静かに薪を加えた。

「いません。皆、戦で死にました」

「そうか。なら、何のために戦う?」

 わかりません。そういい、火を見つめた。

 ガクレンの瞳が、異様な光を発していた。どこか、リークに似ている。違うのは、優しさがないこと。

「戦うことだけしかできないから、戦っているのか?」

「その通り。かもしれません」

「寂しく、ないのか?」

「どういう、意味で?」

「人として」

「捨てました。とうの昔に」

 それ以降、ガクレンは何も言わなかった。

 関門に戻ってから数日。アルヴァーノから呼び出された。

 部屋には、多数の将校がいた。

「最近、こことミレラームの間に賊が出没しているらしい」

 関門とミレラームの間には都市が無く、大小様々な村が点在していた。帝国がグリナッドを占領してからは、この間は自然と空白地帯になっていた。

 国家権力による治安維持がないため、賊が出るのも当然だった。

「しかもこの地域のほとんどの村は、皇国領となることを望んでいる。この地域を引き込めば、防衛線と前線を上げることが出来る。賊を打ち払い、皇国領とする」

 グリナッドが戦場となることは耐えがたかったが、ラージダルから攻め込むのは、難しい。

 しかしその地域を獲得し、城か塞を築ければ、攻めやすくなる。だが同時に、攻められやすくなる。

 城塞の建築を、妨害してくる可能性もある。城塞を建築させておき、後から奪うかもしれない。いずれにせよ、城塞を築く場合も、築いた後も、帝国との駆け引きはある。

 単に賊を討伐するだけなら、将校の数が多かったが、城塞を築くのならば、この数で納得できる。

 役割が、言い渡された。

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