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アザ持ち勇者の原因

作者: 茶良

「僕は運命に選ばれた。」



昔、そう言い続けた男がいた。

男は小さいころから誰が自分を呼んでいるような気がしていた。

だから男はいつか自分を呼んでいる人物が迎えにくると信じて止まなかった。

男は確信していた。それが自分の運命であり、生まれる前から決まっていたことなのだと。



「誰かが僕を呼んでいる」



それが男の口癖だった。







「僕を呼ぶ声がする。…でも、まだ、まだ待ってくれ、僕の大いなる運命よ」



男は信じ続けた。

いつか自分がを呼ぶ声の人物にあえると。その人は遥か遠くに居て自分を必要としている。そこには沢山の苦難と壁が立ちはだかる。自分はそれを辿る運命だと。

なので男は努力した。

男はいつでも呼び声に応じられるようにした。

いつでもどこにでも行けるようにいつも身一つで動けるようにした

いなくなった後に迷惑をかけないように大切なものは作らなかった。

それでも、子を失う親の悲しみを解決する手段はなく、男は沢山の感謝と自分が巡る運命について語った手紙を残した。

男はいつ呼ばれても平気な努力と環境作りを頑張った。

大切な人はいない。

親へのフォローもした。

社会的にいなくなっても問題ないように重要な役職に付かず、就職もしないでニートになった。

向こうでやっていけるように沢山の知識や技術を学んだ。

すべて準備は整い、男は後呼ばれるだけだった。

男は待った。

男は待ち続けた。

5年、10年、50年も経っていた。

男は、いつか自分へ訪れる大きな運命の訪れのための準備や周囲への対応に余念はなかったが、受け身だった。



そしてまた数年過ぎて、ついに還暦を迎えた誕生日で男は爆発した。



「もう、待てるか!」



男は運命を自分で探すことにした。







男は神童と言われていた。

すべての分野で秀才でありと専門家にも負けない膨大な知識があった。それらはすべて「いつかの訪れる運命」に対する並ならぬ妄信からくる行為だったのだが当時まだ子どもだった彼を回りの大人は天才だ、神童だともてはやし将来に期待した。誰もが羨望の眼差しを送った。

ただし、誰も彼に近寄ろうとはしなかった。

彼の恩恵にあやかろうとした無謀なものたちが沢山彼に歩み寄ろうとした。



「ダメだ。悲しいけれど僕はいつか呼び声に応じて戻ってこれない場所に行くんだ。だから、君たちとは仲良くできない。残酷だけれど、それが運命なんだ」



そう言って、男はいつもくぅ…と唇を噛み締めて辛そうに瞳を反らす。

これを言われてされるとみな黙って男から離れて行った。

これは男が36歳を向かえる頃にはもう誰もその科白を聞くことはなかった。それと同時に彼の周りには両親以外誰もいなかった。


男は世間から見ればどこまで行っても残念な中二病であり、親のすねをかじるダメなニートな男だった。

しかし、どんなに親から冷たい視線を送られても、世間から見放されても、男はひたすら自分の運命を信じていた。

だから、自分から運命を見つけ出すことにしたのだ。


そして、その5年後。

社会の屑と烙印を押された男はのちに「世界的革命を起こした男」と名を馳せる。


刻まれた運命を可視化させる。


それが男が発明した道具だった。


のちにその発明は世界に影響を及ぼす大きな運命の流れをもつ<印を持つもの(アザ持ち)>を誕生させるきっかけとなる。


歓喜する世界はだったが、1年も経たないうちに1つの悲報が訪れた。

男の死である。

人々に見放されていた男は一躍偉大なる功績者となるが、その栄光を謳歌することなく帰らぬ人となってしまった。

齢70歳。それが男が地球で生きた時間。

世界中の人々が人類の貢献者の死に涙し、悲しみに明け暮れた。発明にすべてを注ぎ込んで彼は力つきてしまったんだと、身を挺して偉業を成し遂げた英雄を皆静かに讃えていた。

死後、冷たい視線が嘘だったかのようにどんどん美化されていく彼の人生。それを知った人々は男がよく口にしていた「僕は運命に選ばれた」という台詞を本当に最初から世界的発明をする運命を知っていたのだと信じた。

男を人々はその言葉通り、


「運命に選ばれた男」とよび、歴史的にその呼び名が刻まれた。


男はの人生そのものが彼が口にしていた「運命」なのだと誰もが信じて疑わなかった。


なので、一番最初に自分の運命を可視化してみてしまった男が「嘘だ!間違いだ!」と癇癪を起こして5年かけて作った世界的遺産を壊そうとして研究員に取り押さえられたり。

最後の言葉が「召還されぬまま…」と世間の見解とまったく違う事実はこっそり抹消された。


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