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第8話 「激突」

 耳に(つんざ)くような金属音が木霊している。

 前鬼が頭部をハンマーの様に振り回し、鹿が前角で受け流す。さっきからそれの繰り返しだ。


 うちは苦虫を噛み潰したような表情で状況を見とる。

 うちが気にしとるのは一点! 鹿の足下に倒れている人物や。……今ならまだ、後鬼の回復魔法を使えば何とかなるやもしれん!

 そう信じ、鹿をその場から離そうと、前鬼に指示を出したんやが。鹿が全く動こうとせん。

 澤井さんがそばに居る為に攻撃魔法も一切使えん。余計イライラが増してった。


「なんやねん! お前はぁぁ! はよどっか行けっちゅんねぇぇぇん!」


 鹿も、決して余裕で攻撃を受け流していた訳ではなかった。度重なる激しい殴打で、すでに足下がふらつき始めていた。


「奴さん、足にきとるでぇ! 頭を左右に()っ叩くんや!」


 前鬼は頭部の出っ張りを左右に振り、鹿の頭を激しく殴打した。

 鹿は若干あとずさるが、前足が痙攣(けいれん)して、体制を旨く立て直せない。

 うちはこの隙に、一気に畳み掛けた。


「今やぁぁぁぁぁトンボ返りキックやぁぁぁぁぁぁ───!!」


 前鬼が鹿の懐に潜り込み、後方宙返りをしながら下半身で蹴りを放つ。


 (おびただ)しい轟音が一帯に鳴り響き、先ほど前鬼が叩き込まれた家の一階に蹴り入れられた。

 更に、支柱を破壊されたのか? 家は中心から倒壊し、その際に発生した粉塵で辺りが見えなくなる。

 うちはこの隙に、澤井さんの元に駆け寄った。


 胸に大穴が空いていて、穴向うのアスファルトがハッキリ見える。

 再び目頭が熱くなり、声を上げて泣き叫びたかったが、その全てを飲み込んだ。


「武田さぁぁぁ──ん! お願いこっちに来てやぁぁぁ! 澤井さんをマギア・アルボーまで運んで欲しんや、お願いやぁぁぁ!!」


 武田さんが澤井さんを抱きかかえ、マギア・アルボーの根本まで運んだ。そして、後鬼に命じ全身に回復魔法を掛ける。


 うちは頭では分かっていた。もう、どうする事も出来んちゅう事を……体を動かす中心が──無いんやもの……。

 回復魔法で体を元に戻せても……うちはそれを、お父ちゃんの時に散々思い知らされた……。


 でも……澤井さんは招待者や。さっきマギア・アルボーと契約を交わし、その加護を受けとった。

 マギア・アルボーも、うちに力を貸してくれた。今、その僅かの奇跡に(すが)り付いとる。


 澤井さんの左手を両手で掴み、うちの心臓に押しつけ心の底から祈った。

 回復魔法がいつも以上の速度で体を治していく。それを見て、うちは奇跡が起こるのかと更に強く手を握る。

 でも、治療の終わった体からは……心臓の音が聞こえてこなかった。


 鼻孔が熱くなり、両目に涙が浮かび上がった時だった。

 倒壊した家から瓦礫が舞い上がり、再び辺りは粉塵で見舞われる。そして、中から甲高い(いななき)きが聞こえた。

 うちは澤井さんの左手をそっと置き、鼻を(すす)って立ち上がり、涙声で言い放つ。


「えぇで、こうなったらトコトン()り合おうや! ……うちも、あんなんや気が済まんかったんや……今度はさっきとは違う、正真正銘の全力を見せたるわ!!」


 粉塵が晴れ、鹿の姿が見えると凄まじい殺意を放った。


「第三ラウンド開始やぁ!」


 目に涙を浮かべ、口元を緩ませて鹿を見遣(みや)る姿は、まるで炎の中に飛び込もうとしている蝶の様だった。


 前鬼の正面に五つの魔法陣が浮かび上がる。


「先ずはこれでも食らいやぁぁぁぁぁ! 牙炎弾(がえんだん)!!」


 それぞれの魔法陣から火球が飛び出して、真っ直ぐ鹿に襲いかかる。

 五発の火球が一点に命中し、瓦礫が舞い上がり炎が燃え上がった。

 だが瞬間! 前鬼の後ろの空間が歪み、そこに鹿が現れる。


「何度も同じ手は食わへんでぇ!! 後鬼! 花方壁(かほうへき)!」


 鹿が体を溜め、カタパルト突進を仕掛ける。だが、前鬼の上半身部分に円形の光りの盾が現れ、鹿の突進を防いだ!

 インパクト時! 周囲に衝撃波が巻き起こり、駐車してある車は近くの壁や別の車などに衝突して、ゾンビ共は吹き飛ばされた。

 うちは、澤井さんの上に覆い被さり、互いが吹き飛ばされるのを防ぐ。


 鹿の四足はアスファルトを削り上げ、光りの楯──花方壁(かほうへき)を押しやるが、ビクともしない。


 体を起こして、鹿を睨み付けて言う。


「さっきの、うちらを覆ってた星方壁(せいほうへき)とはちゃう! 一点しか防げんが防御魔法としての力はこっちの方が上や! もう、自分の突進技は前鬼には利かへんで!」


 鹿の足下に、炎の五芒星が描かれる。


「年貢の納め時やぁぁ! 火炎陣(かえんじん)!!」


 鹿の足下から、炎の柱が現れた。鹿は逃げ出そうとするが、炎柱の内壁は鹿の逃走を阻止する。

 前の威力とは段違いで、炎柱内のアスファルトが瞬時に燃やし尽くされた。

 そのあまりにも高い温度で、近くの民家が次々と燃え上がる。


火炎陣(かえんじん)は、敵を炎柱で包み込み退路を断ち、焦熱を与える技や。直接炎でのダメージは無いが、永遠に地獄の熱さを味わうで! 生物ならあっという間にミイラや!!」


 澤井さんに目を配せ、爪が食い込むくらい、強く拳を握り込んだ。うちの肩や両腕が震えだす。しかしこれは、恐怖では無く──怒りで震えていた。

 そして、再び鹿を睨み付ける。


「……ミイラにはせん」


 怒気を含み、呟くように喋り出す。


「ミイラだなんて、体が残る死を自分には与えん! ……その体! 木端微塵に吹き飛ばしちゃる!!」


 激声を放つと同時に、炎柱の下に水の五芒星が描かれる。


「ここで、スイッチやぁぁぁ! 水氷陣(すいひょうじん)!!」


 炎柱が消えると同時に、凄烈な水柱が吹き出した。


火炎陣(かえんじん)の熱さは千二百度や! ここで水氷陣(すいひょうじん)の温度を、限界のマイナス百八十度まで下げれば、一瞬で吹き飛ぶ!……ジ・エンドや!」


 水柱の表面の色が白色に変化して、火が燃え上がった家々が一瞬のうちに消化された。それと同時に、大粒の氷塊を辺りに撒き散らす。

 うちは、水氷陣(すいひょうじん)の温度がマイナスの限界まで達したところで術を解いた。


 刹那! もの凄い爆音が周囲に鳴り響く!


 熱衝撃爆発の威力は凄まじく、路面に巨大な穴が空き、その場所には何も存在して居なかった。


「……やった!?」


 目頭が熱くなり、体の力が抜けその場にへたり込んだ。

 うちは、澤井さんの左手を取り。彼の指をうちの指に絡ませ、両手で強く握り締めた。そして、笑顔で語りかける。


「かたき……討てました……」


 片方の手で彼の顔に触れ……右目に掛かっていた前髪をずらす……。


「私が……あなたの代わりに……街も……」


 うちが澤井さんに語りかけてる時やった──突如、前鬼が穴に向かって臨戦態勢をとったのだ!?

 穴の空気がゆらゆらと揺らめき、何かの体が徐々に発現しだす。

 そしてその場から、甲高い(いなな)きが聞こえた……。


「え?! そ、そんな……? う、嘘や!? あり得ん? ……何で?」


 うちは、澤井さんの手を更に強く握り締めた。そして、この光景を否定したかった!


「何で自分生とるんや? ……今まで、あれで死なんかった奴なんておらんかったのに……」


 穴の中にはっきりと鹿の姿が現れる。そして、再度空に向かって(いなな)く。


 うちは澤井さんの手を、自分の顔に擦りつけて、堰を切ったように泣き喚いた。


「かんにんや……かんにんしてやぁぁぁ! かたき……取れんかった……あの技が利かんのなら、もう、うちに出来る事あらへん……かんにんやぁぁ澤井さぁぁぁぁん!!」


 気概を失い。ただ、泣きじゃくった……。

 お父ちゃんが死んでから、ひたすら皆を護る為に努力してきたのに──その努力が、全く報われへんかった。ううぅぅぅぅぅぅうぅ……。


 鹿の攻撃を前鬼が受ける。だが、先程とは違い、鹿の猛攻に対処しきれていない。


 もう……気力は全く沸いてこなかった。

 澤井さんに絡めた指を離し、彼の掌をうちの顔中に擦りつけた。

 そして、目を閉じて……彼の胸元に顔を(うず)めた。


……………………トクン。


「え?!」


 今、澤井さんの鼓動が聞こえたような気がした?

 顔を上げて、澤井さんの表情を見るが、別段変わった様子は無い。

 うちは、もう一度彼の胸に顔を押しつける。


………………トクン…………トクン


 間違いなく、心臓の鼓動が聞こえる。

 嬉しくて、澤井さんのシャツを強く握り締めた時だった──。


「仇なんか取らなくて()いのに……」


 澤井さんの声が聞こえた? うちは勢いよく顔を上げた──彼は目を開き……うちの事を見ている。

 顔が崩れ、瞳から大粒の涙が零れだした。


「澤井さん! ……澤井さん! ……澤井さん……澤井さん。澤井さん。澤井さん。澤井さぁぁぁぁ──ん!!」


 彼の胸に崩れ落ちて、何度も名前を呼びながら泣きじゃくった!


「……何で逃げなかったんだ?」

「……そんなん……逃げれる訳ないやん……すっごい腹が立ったんやもん!……もう、腹が立って、悲しくて、悔しくて……どうしょうも無かったんやもん!!」


 顔を上げて、両手で涙を擦りながら答えた。

 うちの言葉が終わると……澤井さんはうちの頬に右手を当てて──親指を口の中に入れて引っ張る。


「あにをふるんれふか?」(何をするんですか?)

「お前が逃げてないから……俺が逃げれないじゃないか?」


 もの凄く理不尽な事を言われた。……そして、澤井さんはもう片方の親指も、うちの口の中に入れて左右両方に引っ張る。


「ひはいれふはわいはん!」(痛いです澤井さん!)


 うちの口から指を抜き、右手で頭を優しく『ポンポン』と叩いた……そして……。


「ありがとな……。」


 聞いて欲しいのか、聞いて欲しくないのか? ……小声で語ってくれた。

 うちは両頬を(さす)りながら、何かを話そうとするんやけど、旨く言葉が出てこない……。


「全く、何してくれるんだ、お前は! 俺の町内がメチャクチャじゃないか!?」


 今までを全部見てきたかのような? とても不思議な事を言う。


「え?! ……澤井さん……何で知って……」


 その時、倒壊した向かいの家から、轟音と共に瓦礫と粉塵が巻き起こった!

 前鬼──くんが、鹿に吹き飛ばされたのだ。

 鹿は、荒い息を吐き、空に激しく嘶いた。


「先に、あいつをどうにかしないとな!」


 澤井さんはそう言って体を起こす──だが、治療が不十分なのか、胸を押さえてふらつく。


「ダメや澤井さん! そんなん体で何する気や! ……うちが……うちがもう一度がんばるから……そんなん止めてぇぇ!!」


 うちが再度、瞳に涙を潤ませて訴えると、澤井さんはうちの頭に手を置き……


「ここからは、俺のターンだ! 格好付けさせろ!」


 と、口元を緩ませて言った。「でも!」と反論すると……


「舞名! 俺に力を貸してくれ」


 と…………言われた。


(狡いやん、こんな時に真顔で、うちの名前読んで……うちの事頼ってくれて…………凄く嬉しい……)


「狡い人や……そないな事言われたら……断れへんやん」


 澤井さんを行かせるなんて、絶対嫌やのに、笑顔で返してもうた。

 こうなったら、澤井さんが何をしようとも、全力で護るしかない。



「どうするんですか? ……あの──鹿は、前鬼くんの最強の攻撃でもダメだったんですよ?」

「あぁ……そうだったな! でも、あれは生物じゃないからしかたねえよ……。」


 またや!? やっばり澤井さんはうちの戦いを全部知っとる……そして、何故か鹿の正体まで?


「え?! 何で知ってるんですか? そして、あの鹿は何なん?」

「それは、追々話してやるよ! ……後、あの鹿はこの土地の霊獣だ!」

「……れーじゅー?」

「あぁ! “ユッコルカムイ”だ!」

「ゆっこ? ……かむい?」

「アイヌの霊獣だよ!」

「……あいぬ?」


 全く知らない単語が出てきて、チンプンカンプンや。


「俺がユッコルカムイに突っ込むから、あの小さい楯であいつの突進を防いでくれ」

「な!? 何言ってるんや! そんなんあかん! 失敗したらどないすんや! ……あかん、絶対あかん!」


 澤井さんの要求に全力で反対した! だって、失敗したらまた串刺しに──今度も助かるなんて分からんやんか!?


「頼む、舞名! お前を信じているから」


 またや……また一番言って欲しい言葉(名前)を、一番言って欲しくない時に言う。……凄い狡いやん。

 うちは拳を強く強く握り締めた。


「分かった……うちが澤井さんの事、全力で護る!」

「サンキュー! なら、俺の足掻きをしっかり見せてやるよ!」


 そう言い、澤井さんはユコル──ゆっこ? ──鹿の方に向き直った。

 鹿は嘶いた後、首を左右に振って、うちらの方に向き直り。地面で前足を蹴って、突進の体制を見せた。


 澤井さんは両腕を互いの腕で掴み、押さえ付けている。……まるで怖くて震える体を、無理に黙らせている様に見えた。


 そう言えば、この人はそういう人やった。……うちの為に格好付けて本気で体を張る人。

 戦うとか、ましては殺すなんて、今まで考えたこと無いやろに。それを無理矢理押しつけられて、パニックになるのが当然やのに……。


 うちかて、最初の頃は澤井さん以上にパニックしてた。泣き叫び、絶望して──師匠がおらんかったら、うちは今頃死んどったんとちゃうかなぁ?

 他人の為に体を張るなんて、うちには出来んかった。自分の事で精一杯やったから。だから……お父ちゃんが死んでしもうたんや……うち達を護る為に……。

 お父ちゃんも怖くてパニックしてたのに。うちやお母ちゃん為に、無理して……我慢して……。

 ほんと、澤井さんはうちのお父ちゃんそっくりや……すっごく、大好きなお父ちゃんに……。


「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ────!!」


 澤井さんが叫んだ。でも、恐怖を払ったんやって事が……うちには分かる。


「よっしゃぁぁぁ!!」


 かけ声と共に、澤井さんが走り出した。それに呼応するかのように、鹿も澤井さんに向かって駆けだす。


「後鬼くん! 花方壁(かほうへき)やぁ!」


 うちは渾身の思いを込めて放った! どんな攻撃でも受け止める、強い強い楯のイメージをして。


 澤井さんが鹿と接触する瞬間! 彼の胸元に円形の光りの盾が現れた。そして、激しい衝突音が鳴り響き、辺りに衝撃波が巻き起こる。

 粉塵が舞。うちも飛ばされて、マギア・アルボーに背中を打ち付けた。


「澤井さぁぁぁぁぁ───ん!!」


 埃で視界が奪われ、状況がよく見えない。


「澤井さん! 澤井さぁぁぁぁ────ん!!」


 澤井さんの無事を祈って何度も呼んだ!


「あいよ!」


 澤井さんの声が聞こえた。それと同時に埃が晴れ、彼の前で花方壁(かほうへき)が強い輝きを見せている。

 鹿が前に進もうと足掻いてるが、花方壁は一切の進入を許さない。


「舞名……サンキュー」


 お礼の言葉が嬉しくて、顔が(ほころ)んでしまった。


 澤井さんは足掻いている鹿に手を伸ばし、角を掴む!


「やっと分かったんだぜ、何故ダメだったのか? ……この魔法は、臆病者は使えないんだ! ……自分が安全な場所に居て、遠方から放ったって意味が無かったんだ! 何故なら……こうやってガチに向き合い、相手に接触して初めて発動するんだから……」


 澤井さんの右手から青白い光りが放出される。


「ブレーンウォッシング!」


 鹿は微弱な光りを発して体を小刻みに震わせた。そして、後方に下がり頭を左右に振って嘶く。


「もう、大丈夫だぞ」


 澤井さんの言葉を聞き、彼に駆け寄った。

 澤井さんはメニュー画面を開き、使役者の項目を見ていたので、うちはそっと覗き込む。


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◆使役者◆


種族 :霊獣 【ユッコルカムイ】

年齢 : -

生息地 : 日本国北海道全域


LV 3

力 890

耐久 340

魔力 490

精神力 490


種族解説 : ユッコルカムイとはアイヌ伝承における鹿の霊獣である。霊獣や精霊は大地のエネルギーそのもので構成されている為、大地と切り離さない限り存在を消滅させる事は出来ない。

特殊能力 : 自らの力を何倍にも高め、爆発的な加速で相手を攻撃する。肉体を量子分解したり再構成したりする。

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「霊獣ってそういう存在だったんですね? ……だから、倒せなかったんだ」


 思った事を、つい口に出してしまう。私の癖だ。


「わっ! お前はどうしていつも勝手に覗いているんだよ!」


 澤井さんが、またもや大慌てでメニューを閉じてしまった。

 私だって、詳しく知りたいのに……そういうところは意地悪だ。

 だから、不満を声に出して言ってやる。


「いけずぅ~」


 そして、澤井さんはユッコ──鹿に手をかざして言い放つ。


「まあ……色々とあったが、お前も今日から俺の部下だ! ……宜しく頼むな ……取り敢えず今は帰ってくれ」


 鹿の足下に、見たことの無い模様の魔法陣が浮かび上がった。


「サモンゲート」


 澤井さんの言葉と共に、鹿は魔法陣の光りに包まれて消えていった。


「へぇ~ ユーカラ模様の魔法陣か」


(ゆ~から?)


 またしても意味不明の単語を聞く。

 そして私に向き直り。目を泳がせて、人差し指で頬を掻きながら話し始めた。


「そのぅ……何だ?……ま──こ、小鑓(こやり)さん、色々と有り難うな……。」


 澤井さんが、私の名字を呼んでくれた。

 覚えてくれたんだと喜んだが。さっきまで下の名前を呼んでくれてたのに、これはあんまりだと思う……。


「え、えと、澤井さん……わ、私の事は、ま、舞名と、下の名前を呼んで欲しいです……。」


 私は今、多分! もの凄く赤い顔をしてると思う……あまりにも恥ずかしくて、顔を俯いたままでしか話せない。


「あ! そうか、なら、舞名……サンキューな!」


 『ボッ!』……間違いなく、今! うちの顔は茹で蛸みたいになっとる。両手で頬を触っても凄く熱いの分かるもん!

 今のではっきりした。うちは、本気で好きになったみたいや──そりゃそうや! うちのこと命がけで護ろうとしてくれたんやもの、これで惚れないわけないやん……あかん! 心臓がバクバクしてきた。立ってれへん……。

 全身の力が抜けて、その場にへたり込んでしまった。


「おい! 舞名! 大丈夫か、しっかりしろ!」


 澤井さんが、うちを抱きかかえて心配してくれてる。すっごく幸せやぁ~

 周りからゾンビ達の呻き声が聞こえてきたけど……今は考えんとこ。せやから後鬼くん、星方壁(せいほうへき)を宜しくや!



◇◇◇



HEROS Community (ヒーローズ コミュニティ)


◆チャットルーム◆


名前:ゼリグ・カーハン No.3003

 何だよ セルゲイの奴来てね~じゃね~か 人を呼び出しておいてよ (怒)


名前:カーチャ・コヴァレンコ No.2997

 黙るのですね


名前:ゼリグ・カーハン No.3003

 ハァ~~ 何か言ったか ( ゜Д゜)ゴルァ!!


名前:カーチャ・コヴァレンコ No.2997

 その顔文字もウザイのですね

 直ぐ止めて欲しいのですね


名前:ゼリグ・カーハン No.3003

 顔文字はネットの文化なんだよ! てめ~も アホみたいな語尾 打ってんじゃね~よ ヴァ~カ ヽ(`Д´)ノ


名前:カーチャ・コヴァレンコ No.2997

 貴方に言われたくないのですね

 それにこの喋り方は元々なのですね


名前:レオニード・シェレスト No.0853

 お前らいい加減にしろ。


名前:ゼリグ・カーハン No.3003

 セルゲイの奴が居ね~のが悪いんじゃんか

 アイツが来て さっさと用件を済ませりぁ こんなバカ女の相手なんてしなくてすんだのによ! (-公-)y-~


名前:カーチャ・コヴァレンコ No.2997

 私だって、お前みたいなの、相手にしたくないのですね


名前:ゼリグ・カーハン No.3003

 おう! 上等だゴラァ! 俺のNo.登録しろ! 今すぐお前のとこ行ってけりつけてやっからよ! ヽ(`Д´)ノ


名前:カーチャ・コヴァレンコ No.2997

 お断りなのですね、お前みたいなのが来たら、私の街が汚れてしまうのですね


名前:ゼリグ・カーハン No.3003

 何だと! ( ゜Д゜)ゴルァ!!


名前:レオニード・シェレスト No.0853

 いい加減にしろと言っているのだ!


名前:セルゲイ・ペレルマン No.0007

 ゼリグもカーチャも相変わらずだな。


名前:ゼリグ・カーハン No.3003

 セルゲイ Σ(°△°)


名前:カーチャ・コヴァレンコ No.2997

 セルゲイ


名前:レオニード・シェレスト No.0853

 やっと来たか。


名前:セルゲイ・ペレルマン No.0007

 済まん遅れて。木と対話していた。


名前:レオニード・シェレスト No.0853

 マギア・アルボーとですか?


名前:セルゲイ・ペレルマン No.0007

 そうだ。


名前:ゼリグ・カーハン No.3003

 で? 何なんだよ 俺たちを呼び出したのは (。-`ω´-)


名前:セルゲイ・ペレルマン No.0007

 魔王がいる。


名前:レオニード・シェレスト No.0853

 魔王?!


名前:ゼリグ・カーハン No.3003

 何なんだ? そのゲーム展開は? ( ̄^ ̄;)


名前:カーチャ・コヴァレンコ No.2997

 噂で聞いたですね

 イギリスの方に魔王“レヴィアタン”が現れたと


名前:レオニード・シェレスト No.0853

 あの、聖書の魔王ですか?


名前:ゼリグ・カーハン No.3003

 うわっ!? 対峙したくね~ (ノ >д<)ノヾ


名前:セルゲイ・ペレルマン No.0007

 確かにそれも驚異だが、そっちは対策部隊が結成された。

 先程会議で決まったとこだ、明日にでも告知されるだろう。


名前:セルゲイ・ペレルマン No.0007

 私の言う魔王は、招待者の中にいる。


名前:カーチャ・コヴァレンコ No.2997

 どういう事なのです?


名前:ゼリグ・カーハン No.3003

 何だよそれ! ヽ(`Д´)ノ


名前:レオニード・シェレスト No.0853

 詳しく話して頂けますか。


名前:セルゲイ・ペレルマン No.0007

 私も詳しい情報は分からないが? 先程マギア・アルボーの力の中に、ハッキリと魔王の存在を感じたのだ。

 つまり、招待者の中に魔王がいる。


名前:レオニード・シェレスト No.0853

 それは、由々しき事態だ。魔王とはこの世に災いをもたらした張本人。

 魔王共がゾンビを生み出しているのですからね。

 レヴィアタンには対策部隊が組織されたのなら、我々は招待者の魔王を何とかしましょう。


名前:セルゲイ・ペレルマン No.0007

 有り難い。だが、不明瞭な事ばかりだ。なので、はっきりとした事が分かるまでは、上にも進言が出来ない。

 それに、今はそれどころではないしな。

 この件は、私の独断で行う事になる。それでも、手伝ってくれるか?


名前:レオニード・シェレスト No.0853

 喜んで、お手伝いしましょう。


名前:ゼリグ・カーハン No.3003

 ゾンビの王様か! 上等じゃねえか! 俺がぶち殺してやるよ! ヒャヒャヒャヒャ


名前:カーチャ・コヴァレンコ No.2997

 私も協力するのですね、人間の魔王を倒すのですね


名前:セルゲイ・ペレルマン No.0007

 有り難い。

 だが、その存在を感じただけで、実際何処にいるのかも分からん?

 まあ、その辺は私が根気よく、マギア・アルボーと対話を試みるしかないのだが……。


名前:シト No.0666

 魔王の居場所を教えてあげましょうか?


名前:レオニード・シェレスト No.0853

 ?!


名前:ゼリグ・カーハン No.3003

 誰だ おめぇ~?


名前:カーチャ・コヴァレンコ No.2997

 だれ?


名前:セルゲイ・ペレルマン No.0007

 知っているのか? 魔王の居場所を!


名前:シト No.0666

 魔王は、日本にいます。

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