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第6話 「前鬼と後鬼」

「それでは、後鬼くんを呼びますよ!」

「あ、あぁ」


 俺は固唾を飲んで見守った。

 絶対、まともな物が出てこない気がするから。


「後鬼くん、召喚!」


 さっきの前鬼の時と違い、えらくあっさりと言う。

 だが、先程と同じように、床に光りの五芒星が描かれて、後鬼が現れた。


「にゅ!」

「………………」


 これは、何と表現したら良いのだろうな?

 直径15㎝程ある巨大な肉まんに、ファンシーショップで売られてるような、アザラシのぬいぐるみの顔が付いている。

 しかも、表情がころころと変わり、おまけに鳴く。


「にゅ」

「ひゃ~ 後鬼くん! 相変わらず、めっちゃラブリ~やぁ!」


 後鬼を抱き寄せ、頬ずりをしている。

 ラブリー? ……まぁ、この際愛敬があるかは置いといて、この肉まんもどきのデザインが何か、聞いてみるこしにした。


「……単純な疑問なんだけど……それ、何なの?」

「えっ? ……何って、後鬼くんやけど!?」

「いや、俺が言いたいのはそういう事じゃ無くて、そいつの体は何をモチーフにしてるのかってこと?!」

「スライムの体に、アザラシをミックスした生物“あざららむ”──私のオリジナル・キャラです!」

「…………なるほど」


 これ以上聞くのをやめた……。


 舞名が後鬼とじゃれてる最中(さなか)、真面目な顔で聞いてきた。


「ところで澤井さん。マギア・アルボーとの契約の言葉は分かってますよね? ヒロコミュ(ヒーローズ コミュニティ)に書いてあるから、読んでるとは思いますが一応念のためです」


 最後の方は、申し訳なさそうに言ったが──全然知らねぇ!


 「済まん!」と、一言言い、急いでパソコンに向かおうとした。


「あ、待ってください!」


 そんな俺を舞名は呼び止めて、ポケットからメモを出して渡してくれた。

 メモには、マギア・アルボーとの契約の言葉が書かれていた。


「え? これ……」

「一応、念のために用意して置いたんです」


 照れくさそうに言う。


「あ、ありがとう……」


 舞名に向かって、素直に礼を言ったのは、これが初めてだった。



◇◇◇



 ドアスコープから覗くが。……やはり、五月蠅いほどドアにじゃれ付いてた彼は、居なくなってた。


 持ち込んだ靴を履いてる舞名に、その(むね)を伝え。先程決めた、栓抜き(前鬼)、舞名、後鬼(舞名の肩の上)、俺の順で外に向かうとする。


 俺がドアを開け、栓抜きが階段近くまで浮遊して飛び出す。栓抜き……いや、前鬼には、敵がいたら攻撃するように伝えてある。


 階段元でキョロキョロと見渡している。(どこに目が付いてるのか謎だ)


「敵は、居ないみたいですね?」

「そうだな」

「では、私も出ますね」


 笑顔を向けてから、舞名が出る。

 そして俺が出て、ドアを閉め掛ける時だった。


ウゥゥゥ……


 開いたドアの陰に、隠れていたのだろう! 隣の男が、直ぐ側の俺に襲いかかって来た!


「うわぁぁっ!」

「澤井さぁん!」


 右手で男の喉元を掴み上げ、左手で奴の体を押さえ。食らい付いて来ようとする(あぎと)から必死に身を守った。


「前鬼! 澤井さんを……!」


 舞名が前鬼を呼ぶが……その前に俺は叫んでいた!


「ブレーンウォッシングゥゥゥゥゥ─────────!!」


 俺の右手から青白い光りが放出され、男は微弱な光りを発して体を小刻みに震わせた。

 前に突き出していた両手をダランと下げ、体を俺から離す。


「もう、大丈夫だ……多分?!」


 少し息を切らしながら、前鬼の介入を止めさせる。


「澤井さぁん!」


 涙声で俺に近寄ってきた。


「ゴメンなさい……うちが、うちが護るって言ったのに……」


 頭を深く下げて謝罪する。


「いや……俺の油断だ。 最初から、後鬼の防御魔法を掛けながら出れば良かったんだ。……それなのに俺が……だが、実りもあった! 魔法の試しが出来たんだ、前向きに考えようぜ!」


 下げている頭を軽くポンと叩いてやり、お前のせいじゃないから気にするなと言い聞かせる。


 舞名は分かりましたと、笑顔を見せてくれたが、何か内に秘めた思いのような物を感じた。

 天然が目立ったせいであまり気にしなかったが、舞名は俺よりも一週間も先にこの世界に来ている。つまり……人の死を見て来てるのだ。


 ふと気づくと、右上の▼が点滅している。▼を押してメニュー画面を開いてやると、パーティが点滅してた。更にパーティを開く。


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◆パーティ◆


招待者

支援者

使役者

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 パーティの項目が増えていた。新しく増えた使役者の窓を開いた。


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◆使役者◆


種族 : ゾンビ 【武田章次郎 (たけだしょうじろう)】

年齢 : 23才

生息地 : 日本国北海道旭川市


LV 1

力 142

耐久 147

魔力 0

精神力 0


種族解説 : ゾンビとは何らかの力で死体のまま蘇った人間の総称である。

特殊能力 : 相手に食らい付き感染させ仲間を増やす。

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「この人、武田さんって言うんですね?」


 俺の背後から声が聞こえた。振り向くと、右後ろから舞名が覗き込んでいる。


「な、ば、バカお前! ……何、勝手に覗き込んでるんだよ!」


 慌ててメニュー画面を閉じると。「いけず」と不満をもらした。


 試しに武田ゾンビに、色々と命令してみた。右を向けと言ったら右を向き、左と言ったら左を向く、スリラーダンスを踊れといったら本家顔負けのテクを見せてくれた。(ホントに踊れると思わんかった)


 舞名は「凄い、凄い!」と、拍手を贈っている。


 俺はようやく手駒が手に入ったことに、ほくそ笑んだ。


「そういえば、何で私は襲われないんでしょう?」


 舞名が素朴な疑問を言う。確かに? 何故舞名まで襲われないのかは疑問だ? だが、思い当たる(ふし)はある。


「俺とパーティを組んでるからじゃないのか!?」


 多分正解だろう。それならば、俺のアビリティの加護を受けていてもおかしくは無い。

 「そうなんですかぁ」と、屈託無く笑った舞名を見て、何となく弄りたくなった。


「だったら、パーテイ解除してみるか? そうすれば分かるぞ!」


 舞名が懇願したら、直ぐパーティを復活させてやろうと思い。意地悪な顔(俺的)で言った。


「あかん! あかんやんそんなの! 武田さんがうちのこと襲って来たら、前鬼くんで倒さなならんくなる。うち、そんなん嫌や折角仲間になったのに……」


 意外だった。……武田ゾンビの事を気遣うとは思いもしなかった。俺は舞名と違い、彼を道具として見ていた。


「済まん……」


 舞名に詫びを入れてから、武田ゾンビの方に向き直る。

 そうだよな……。例えゾンビでも、仲間として扱わないと駄目だよな……。


「これから宜しくな、武田君」


 改めて武田君の顔を見る。まともなら美形だが、左の頬肉が削げ落ちていて、直視に耐えられそうにない。(ゴメン武田君やっぱり無理かも!)


 武田君を仲間に加えて階段を下りていく。先程の襲撃を教訓にして、しっかり後鬼の防御魔法で包まれている。

 後鬼の防御魔法は、後鬼を中心に半径2mのドーム型のものだ。

 後鬼は舞名の右肩に乗っているので、舞名にかなり近づかなくてはならない。正直気恥ずかしい。


 階下の入り口の引き戸を開けて外に出る。(まば)らな距離で蠢いているゾンビ達が一斉にこっちを見た。全部で10体程いるゾンビが、呻き声を上げて向かって来る。


「えぇな前鬼くん、殺したらあかんで! 近づいて来れん用に押し返すんやぁ!」


 舞名がやる気満々で前鬼に命令する。前鬼は一体、又一対と次々とゾンビを遠ざけた。巨大な栓抜きがゾンビを押し戻す光景──何ともシュールだった。しかも、圧倒的だ!


 舞名のやる気とは逆に、何となく覇気が衰えてしまった……。


「えと……武田君も、手伝ってきてくれる……」


 出世の見込みのない、窓際上司の様な命令をする。

 武田君は呻き声を上げて、ゾンビ達の群れに向かっていった。


「澤井さん!」

「はい……」


 呼びかけに、力なく返事をする。


「マギア・アルボーの実をどの辺に植えますか?」


 現実に引き戻された。


(そうだ! この為に外に出てきたんだ! 前鬼の格好悪さに放心してる場合じゃない!)


 俺は、目に活力を戻す。



 後ろ頭を掻きながら、周りを見渡すが? 土の見えるところには、すでに木が植えてあり。もう一本の木を植える場所など、何処を見てもなかった。


「出来れば、このアパートの敷地内に植えたかったが……。見て解るように、周りは全てアスファルトだ。……ちょっと先の公園まで行かなきゃ駄目だろうな」

「でしたら、ここのアスファルトを剥がして植えますか?」


 舞名の意外な申し出に、一瞬ついて行けなかった。


「え? ……アスファルトの下の地面に植えるって、どうやって?」

「簡単ですよ、前鬼くんならアスファルトを剥がすなど朝飯前です」


 自信満々という顔で答える。


(いや、例え前鬼でアスファルトを剥がしても、その下の土は油を染み込まされて死んだ土だ。そんな土に植えても木が育つとは思えない。ここは、やはり公園まで行った方が……)


 思案していると、俺の考えている事が分かったのか? ……舞名が答えた。


「大丈夫ですよ! マギア・アルボーは大地でさえあればどこにでも育ちます! ……例え川の中だって、川底に植えれば木が育つんです! ……当然、砂漠でも育ちます!」

「……その理屈だと。それが深海でも、海底に植えれば木が育つと言うことになるが?」


 やや、皮肉めいて言ったが。舞名は「その通りです」と返してきた。


 驚いた?! マギア・アルボーの特性というやつにだ。つまりは実質。この地表でマギア・アルボーが育たないところは無いと言うことだからだ。

 何とも言い得ない不安が脳を駆け巡る。


「どうしますか?」


 俺を覗き込むように聞いてきた。


 うたがり深すぎだろう。……自分の不安を首を振って払い、この場所に植えるという舞名の提案に乗ることにした。


 俺が、自分の部屋から見える位置を指示すると、舞名は前鬼を呼び寄せ命令する。


「前鬼くん、そこの場所に火炎陣(かえんじん)やぁ!」


 指示した場所のアスファルトに、炎の五芒星が浮かび上がり、炎の柱が燃え上がった。


 ゾンビ達は燃えさかる炎にたじろいだのか? 立ち止まり、その場でじっとしている。


 激しい炎で、アスファルトがドロドロに溶け出した頃合いをみて、舞名が更に命令した!


「前鬼くん、今度は水氷陣(すいひょうじん)やでぇ!」


 炎の柱が消えた瞬間。水の五芒星が描かれ、(おびただ)しい勢いの水柱が吹き出した! しかも、柱から飛び散った水滴は、氷の粒に変わる。


「凄げぇ!」


 素直に感動した。これぞ俺のイメージしてた、魔法そのものだからだ。……凄く羨ましい! (前鬼が栓抜きじゃ無ければ)


 舞名が、前鬼の魔法を止める。


ドォォォォ─────────ン!


 轟音が響き、魔法を掛けたアスファルトが飛び散る。


 熱衝撃──。物体が激しい温度変化によって、衝撃的な熱応力を受ける現象だ。熱質量を自由に設定することが出来れば、最強の破壊魔法になるだろう。


「凄いな、お前の前鬼」


 俺的には世辞も含まれていたが、舞名は本当に嬉しそうに喜んだ。


「そうです! うちの前鬼くんは最高なのです!」


 前鬼を、ゾンビの排除作業に戻した後、アスファルト下の土に触れてみた。……だが、固すぎて土が掘れない。スコップか何かを探しに行こうとしたところを、舞名に止められた。


「後鬼くん、土に回復魔法です」

「にゅ!」


 舞名の命令で、後鬼が地面に飛び降りて、緑色に輝きだした。

 そして数秒後。体の発行が消えて、又舞名の肩に戻る。


「もう、スコップは必要ないですよ!」


 地面のほぐれた土を手にとって、俺に見せた。


「な?! ……さっきまで固くて、指で掘れなかったのに?」

「後鬼くんのお陰です。後鬼くんが回復魔法で、死んだ土を蘇らせたからです。……地元でも良くやるんですよ、街中(まちなか)に畑とかを作る時に」

「回復魔法で、死んだ土をね……」


 はっと閃いた! (……なるほど……試してみる価値はあるな)


 前鬼は実に優秀だった。頭の部分をバットやテニスのラケットの様にフルスイングして、九体ものゾンビを全て退けている。お陰で一体ともまだ、近づいて来たゾンビはいない。

 武田君も頑張ってはいるが、一体押さえるので手一杯だ。


 俺は舞名から、契約の方法を教わる……。


「実を両手で包み、自分の力を実に与えるイメージをするんです。そして契約の言葉を唱えてから、土に埋めます。その後、数秒もしないうちに木が生えてきます」

「……なるほど」


 しゃがみ込み、舞名に言われたことを実行する。


 両手で実を包み、体内から何かを押し出すイメージ? ……つまり気功のような物を連想した。そして必死に心の中で叫ぶ! (……気ィィィ! ……気ィィィ!)


 叫びが利いたのか? 実が青白く光り出した。ここで舞名から貰った契約の言葉が書かれている紙を、ポケットから取り出し読み上げた。


「我、マナの叡智(えいち)を欲する運命(さだめ)の者なり。今ここに、(なんじ)と生涯の契約を交わしたい。我が名は澤井利哉(さわいとしや)


 瞬間、実から六本の光りの触手が現れ! 俺の頭、胸(心臓)、両手、両足に触れ、友愛に似た感情を抱いた。


「な、何だ? この、愛おしいような守って欲しいような……妙に気恥ずかしい気持ちは!?」


 人生で感じたことのない思いが駆け巡る。……そんな俺に、慈愛の表情で諭すように言う。


「木と友情を結んだ証拠ですよ……ですから、招待者は木が困ってる時は、助けに行かないとダメなのです」


 何となく舞名の上からの物言いに、反発したくなったが……。実を土に植えながら、「宜しく頼むな」と胸中で呟いた。



「………………」

「木に成らないですね……先程魔法を使ったのが、影響したんですね……」


 本来なら物の数秒で木に成るらしい。

 だが、魔法を使ってしまったせいか、何も変わらない。(そう言えば、二回も使ってるんだよな)


 植えた土をじっと見て物思っていると、舞名が驚いた口調で話しかけてきた。


「澤井さん、……鹿がいます!?」


 山中の道路等を車で走っていると、(まれ)に鹿が飛び出してくる。この北海道では良くあることだ。

 だが、こんな民家の所まで現れるのは、聞いたことが無かった。


 珍しいなと思い振り向くと……身の丈3m近くある、巨大な鹿が立っていた!?


「な、な、なんだこりゃぁぁ───────!!!」


 全身に怖気が走り、波乱の前触れを意味した。

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