勘違いから始まる……
「俺、今日死ぬかもしれん」
男の唯一無二の親友である高崎からメールが届いた。
男はそれを見て時が止まったかのように固まってしまった。
「お兄ぃ、どしたん?」その異様な様子を見て男の妹が心配して話しかけた。が、どうやら届いてないらしく固まったままだ。
妹は首を傾げて男に近づき、右手に持ったままになっている携帯を覗きこんだ。
それを見て「そういえば高崎さん、風邪ひいちゃったらしいね。こんな大袈裟なメール送って、変わっとらんのね」と笑顔で話しかける。
しかし、これまた男には届いていないようだ。
ここで男は我に返ったらしく少し考えるような素振りを見せた後、急に立ち上がり家から飛び出していった。
それを「お見舞い行ったんかなぁ」と妹は見送った。
男は脳をフル回転させた結果ひとつの結論に至っていた。
熱血スポーツマンであるはずのあいつが、こんな弱気なメールをしてくるはずがない……と。
しかし男には一つ思い当たるフシがあった。というのも三日前ほどのことだ。
「俺怪我してしもて、いま練習できとらんのよー」
「すぐ治んだろ」高崎はスポーツ一筋で頭が悪い。だからこそスポーツができなくなって死のうと思っているのかもしれない。男はそう考えていた。
男は家を飛び出した後、ある場所へと全速力で向かっていた。
自宅から500mほど離れたところにある公園。いつも子連れの親子で賑わっていることから、家族公園とも呼ばれている。
ここは、高崎と男が初めて出会った場所で思い出の地だ。
だからこそ死ぬ前にここを訪れている可能性があると考えたのだ。
男は汗だくの状態で「高崎ーーー!! 高崎はどこじゃーーー!」と叫んだ。
その様子は周りの親子には狂人に見えたらしく
「お母さんあれなにー」
「しっ! 見ちゃダメ」という会話が繰り広げられていた。
男は羞恥心を刺激されたが、高崎のためとそれに耐えた。
「それにしてもこれだけ大きな声で呼んでも出てこないということはここではないのか……」男はつぶやき、考え、そして思いつく。
そして次こそは高崎の死を止めようと目的地へと走りだす。
次に向かったのは高崎の家の近くにあるスーパーである。
今度は高崎が死ぬ前に美味しい物を食べようとするのではないかと思い、ここを訪れた。
「高崎ーーー!! 高崎はどこじゃー!」男は公園と同様に叫ぶ。
それに客達は驚き、その声の主である男を見る。
普通の人間であれば恥ずかしさのあまり逃げ出すのであろうが、男の頭の中には高崎のことしかなく「高崎ーーー!! 高崎はどこじゃーーー!」と叫びながらスーパー内を走り回る。その様は悪い子を探す秋田のなまはげのようである。
この尋常ではない様子に店員たちも目を丸くして、何の対応もすることができずにいた。
男は隅から隅まで探し、高崎がいないことを確認するとスーパーを飛び出した。
男が飛び出した後、数分スーパー内は静寂に包まれていた。
男はスーパーを飛び出した後、思い当たるフシを4つほど回ったがどこも高崎が見つかることはなかった。
そうして途方に暮れている時”高崎が自宅に居る可能性”を思いつく。
「どうして今まで考えつかなかったんだ!」高崎の家に向かいながら叫ぶ。
メールが届いてからもう1時間経過していた。
高崎の家に男はついたが、扉を開けずにいた。鍵は持っているが、勇気がわかないからである。
男は最悪の事態を想像していた。
……首吊りである。死後とても醜い姿になることを男は知っていたため、それを見ることが出来るのか不安だったからである。
もし親友の姿を見て嘔吐でもしてしまったら、それは親友への裏切りになると考えていたからである。
男はふぅ。と一息吐き、心を決めるとドアノブをひねった。……鍵はかかっていなかった。
男は廊下を進み、リビングの扉を開いた。
「お、なんや。お見舞い来てくれたんか。ありがとなー」
そこには布団に横たわりマスクを付けて咳き込む高崎がいた。
ここで男は初めて高崎が風邪であることを知るのであった……。
キャラ設定
男:勘違いがひどい。思い込むと突っ走るタイプ。そのせいで友達が高崎しかいない。
高崎:スポーツ大好き熱血男。
妹:おっとりやさしい妹さん。兄のことをいつも気にかけている。
みなさんも人を勘違いさせないよう注意しましょうね。
後、人の話をきちんと聞きましょうね(笑)