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鎖龍民話 『龍人(りゅうじん)』

作者: 鎖龍

 むかし人は、龍だった。龍になって空を飛び、龍になって川や海を泳ぎ、そして人になって地上で暮らしていた。朝日とともに起き、日が沈むと寝る。月夜の晩には、少し夜更かしする。食べる分だけ米や麦や野菜を育て、食べる分だけ魚を獲り、着る分だけの衣服を持つ。寝るのに困らない屋根のある住まいを持ち、平和に暮らしていた。

やがて街ができて、たくさんの人が、いっしょに暮らすようになると龍にならない人が増えてきた。いつしか龍になることを忘れて、空を飛んだり、泳いだりすることはなくなった。それだけ街の暮らしは楽しかったのだ。灯りをつけて夜通し起き、朝日が昇っても起きない。着られないほどの衣服を欲しがり、広い部屋のある家を欲しがり、食べられないほどの食べ物を持ちたがった。便利にはなったが、争いは多くなった。

 それでも木曽川のそばに住んでいた若い女だけは、ときどき龍になって泳いでいた。月夜の晩には、龍になって空を飛んだ。

 遠い国から侍がやってきた。侍は、若い女を見て、嫁に欲しいと思った。女も、侍に好意を持っていた。

 ある月の晩に、侍が空を見上げると龍が飛んでいた。龍は侍を見つけると低く飛んできた。侍は襲われると思い、刀を抜いて切りつけた。背中に一太刀受けた龍は、反転すると川の中に飛び込んだ。そのままいつまでも浮かび上がってこなかった。

 侍が国に帰る日に、女は見送った。侍は、女をいっしょに連れて帰ろうとしたが、女は青白い顔をして断った。侍が立ち去ると女は煙のように消えたという。

 あの日、女は、川から上がるところを侍に見られたくなくて川の中で息絶えていた。どうしても、もう一度侍に会いたかったので、霊になった女が侍を見送ったのだ。

 今でも女は、龍の霊として木曽川の底にいるという。月夜の晩には、木曽川の上に龍が飛んでいることが見えるという。


*参考/龍神が現れるというのは、岐阜県各務原市上中屋と各務原市川島小綱町の木曽川に架かる各務原大橋のあたりであると言われていた。また各務原市三井山町には、三井龍神神社があり、水神様と河童が祀られている。これ以外にも、龍神や水神にまつわる神社や旧跡が各地に見受けられる。


◆作者からのお願い◆

 各地に言い伝えられている民話をご存知でしたら教えてください。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 私も「むかーし、むかし」で始まる民話が大好きで、楽しく読ませていただきました。 なんとなく落語の「水神」を思わせる悲恋(?)の話に、彼女を弔おうとする村人の姿が想像できるような御話でした。…
2012/10/26 15:32 退会済み
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