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第五話 家庭教師


【中村久子】3歳で脱疽にかかり両手両足を切断、故に残酷な苛めを受けるが、母親達の厳しくも愛情のある教育方針により自立する。見世物小屋で働き始めた際、「恩恵にすがって生きれば甘えから抜け出せない。一人で生きて行かねば」と決意し、生涯で、国の障害者制度を受けることは一度も無かった。『人の命とはつくづく不思議なもの。確かなことは自分で生きるのではない。生かされているということ。どんなところにも必ず生かされていく道がある。即ち人生に絶望なし。いかなる人生にも決して絶望はないのだ』との人生観に至り、「日本のヘレン・ケラー」と言われる。盲聾唖もうろうあであったアメリカの教育家・社会福祉家のヘレン・ケラーが1937年に日本へ訪問した時に両者は会い、「私より不幸な人、しかし私より偉大な人」とヘレンは語っている。

 ヘレン・ケラーの恩人には、塙保己一はなわ ほきいちという盲目でありながら大学者であった人物がいる。点字等が無かった江戸時代に「群書類従」という、古今・新古今、源氏物語等を編集した古典全集を刊行した。全集は1270種、530巻666冊にも及び、偉業を成している。



 ・ ・ ・



 寝室を共にするなと父親から言われていた可憐は、ケンが眠りにつくまでは傍におり、自分の部屋に戻って就寝する、という毎日を送っていた。何故父親がそう決めたのかは怪訝(けげん)ではあったが、可憐は従うことにした。手を上げるとケンは鼻の先で手を追い、両手を叩くとリズムにのって首を揺らし、手を下ろし近づけると掌のニオイを嗅いだ。成る程、犬とすればその仕草は犬かも知れぬ、狼ではないだろうと目視出来た。可憐が絵本を広げると、ケンはベッドの上で「お座り」になり、本を見た。

「解る? これが『木』よ」

 絵本であるが、木炭で描かれたデザインの木の絵があった。子どもたちが周りで遊んでいる。

「これが『花』。は・な。これも」

 花の絵から指先を、自分の『鼻』へと向けた。「これも、『はな』」続いて、ケンの鼻先に指を向けた。「は、な」何度も発音を繰り返した。


(は、な)


 何度かを繰り返すうちに、ケンは、花=はなと覚えた。だが絵本の絵だけでは実物の「花」の認識には欠けている。触れても紙の触りで色鮮やかさには欠ける。物覚えが悪いのではなく反対に物覚えが例え良かろうとも、実体の無いものについては何であっても理解がし難い。

(き)

 ケンは、目で「読ん」だ。

(ともだち)

 可憐が教えた「絵」を読んだ。

(くうき、みず)

 これまで何冊もの本を開いてきている。

(にんげん、いぬ)

 次々に覚えていった。

(うちゅう)

 無限に続きそうであった。

(せんそう)


 昼間は、外で走り回ることが多かった。風見鶏の館を出れば、ケンは鎖で繋がれて、可憐の隣を歩く。可憐が歩けばケンも歩き、可憐が止まればケンも止まった。遊歩道を歩いて辿れば花畑、原産地はメキシコの高原地帯であるキク科の秋桜コスモスは、ひと足お先に咲いてるよと群生していた。日本に海外から伝来するにはまだ早い。

 早展の進化を見せるこの雑居地に、ひとりの娘と一匹の狼。この誰にも侵され得ぬ領域は、文字通りにひとつの宇宙コスモであった。犬、駆け回りて主人と共す。

 ケンは出会った当初から可憐を敵だとは思っていなかった、これ幸い。


(べんきょう)


 ケンが眠る頃には、可憐も眠かった。

「じゃあね、今日は、お休み」

 可憐が部屋を出て行く頃には、ケンは眠りについていた。



 義務教育は、国や政府、国民・保護者等の人が子どもに受けさせなければならない教育である。国により制度や教育義務期間が異なり、日本の場合は憲法において、子どもを保護する日本国民には法律の定めるところにより教育を受けさせる義務があると定められている。ドイツでは子どもには、「教育を受ける権利」と「就学する義務」の両方が定められており、児童や生徒及び保護者に既成の学校教育を拒否する権利は認められておらず、不登校が発覚した場合は、本人は登校を強制され、保護者も処罰されていたとある。第二次世界大戦敗戦後、「日本は皇室制度を維持し、ドイツは教育制度を維持した」と言われており、ドイツの教育制度は日本の学制改革のような大きな改革というものが無かったらしい。

 今現在の日本の教育義務期間は小学校6年、中学校で3年の合わせて9年間ではあるが、それに至るまでに幾つかの段階がある。

 初めは、1871年、文部省が設置され、翌年1872年に初めての法令である「学制」が公布された所からになる。学生制度を定めた教育法令であった。これを機に義務教育の推進運動が始まり、それまでは推進されつつも、授業料を徴収していた為にか普及には困難であった。

 1890年に法令が改正、またさらに1900年に小学校令が全面的に改正されていくが、ここでやっと尋常小学校の授業料が無料になる等、通学率の上昇が起き始める。1907年、それから1941年と改正の経過を経て名称も少しずつ変わっていくのだが、戦争があった為に実施されない時もあった。影響も与えながらもそして1947年、戦後の公布された学校教育法により、今の義務教育期間になる9年間へとなっている。

 外国人に対する就学義務があるのかどうか、日本には無い。



 日没までには余裕のある時間ではあったが、水色の縦ラインの入った淑女らしいワンピースを着て、旅行用トランクを提げた成人女性が館を訪れた。2つに選り分けた黒の髪を肩で巻き、眼鏡をかけている。ピシリと折られた襟と袖、清潔さが滲み出ていた。

 道中、ここに来るまでは徒歩であったようで、白のハンカチで汗ばんだ顔を拭きながらドアを叩く。ハンカチに付けられた可愛らしい小花は、彼女が刺繍したものである。

 ドアを開けて、執事の一人が彼女を迎えた。

「あ、これはこれは、先生」

 執事は顔を見るなり喚声で表した。「ご無沙汰しております」頭を下げて挨拶をした。

「長期ご旅行はいかがでしたか、ああこんな所で立ち話ではいけませんね、ささどうぞ中にお入り下さい、杏樹先生、お嬢様をすぐに呼んできますね」

「有難う、ササキさんもお変わりなくて」

 御礼を言い終えると、揃い中へと入って行った。


 応接間に通されると、凜と姿勢のよい杏樹女史は可憐が来るまで座って本を開いていた。ドイツ語で書かれた文学小説であった。この頃ドイツでは詩的リアリズムの趣向が盛んで、社会的指向は避けられて現実からは離れた、社会構造の「個々の」欠陥や弱点を告発するものが多かった。短編小説ノヴェレを読みながら、遅くなって可憐がやって来た。

「はい」

 ドアをノックされ返事をすると、可憐の明るい顔が覗き込んだ。

「先生!」

 見るなり、大きな声を上げる。

「可憐! まあ、まあ、まあ!」

 すぐに本を閉じて寄り、可憐と抱き合った。

「元気そうで安心しました。変わっていないわ可憐。とても会えて嬉しい」

「先生こそ、急に居なくなってしまったからとても心配していたの。何処へ行っていたの、教えて先生」

「御免なさいね。弟が、病にかかってしまって……」

 杏樹女史は経緯を話しながら、テーブルへとついた。杏樹女史には目の見えない弟が居り、流行り病と心神耗弱で精神的に安定するまで、なかなか側からは離れられなかったのだという。

「私が不在の間、勉学は進んでいますか、可憐」

 次の話に切り替えられたが、可憐は聞くなりギクリと背筋を凍らせていた。

「その顔ですと、芳しくはないようですわね。では」

 トランクを持ち出し、テーブルの横で開けると、勢いよく何冊もの厚い本を重ねて可憐の目前に置いていった。積み重なりやがて山になると、指でさす。

「明日から早速始めますからね! ご覚悟を!」

 眼鏡の奥でキラリと光が見えていた。


 杏樹女史が可憐の専属家庭教師となったのは、2年前であった。全ての取り決めの権限や決定権は父であるワイスにあり、雇われても基本的に長く滞在することが幾人ものの教師に無かったのであるが、何故ここを去っていくのかは可憐にはよく解らなかった。

 親の過保護よりも、それ以前に何かがあるのではと疑っている。

 深夜0時すぎ、杏樹女史が私室にあてられた部屋に、訪問者がいた。僅かな気味の悪さを感じ取り「誰?」と叩かれたドアに向かい訊ねると、「すみません、お話が」と知っている声が聞こえた。使用人のミヤである。

 ドアを開けると間違いなく、割烹着姿のミヤがおり、ほっと一息をつくと用件を聞いた。話の前に見て頂きたいものがありますと、ミヤは真剣な顔で訴えていた。分かりましたと杏樹が薄手のカーディガンを羽織ると、2人は連れ添って2階の廊下へと出た。ミヤは、壁伝いに視線を向けて、隣の部屋へと促している。

(隣の部屋に……?)

 怪しんだ杏樹女史は、身震いをした。

「大丈夫です。怖いものではありません。ですが、驚かれるやもしれません」

 廊下を歩き出しながら、説明した。

「貴女が不在の間に、お嬢様が動物をお飼いなさって」

「まあ、動物……を?」

「見て頂ければ。そして夜ですし、お声を控えめに」

 何故こんな深夜に、それも「動物」などと……。杏樹女史は訝しがったが、隣の客間に通された時に、全て納得した。ミヤが持つ行灯の光に照らされて浮かび上がった動物に、杏樹女史は息を呑んで見守った。

「犬。けれど、この品種は存じませんわ。何処の国の……?」

 見たのは、体を丸めて眠る、一匹の動物であった。ベッドの上で鎖を繋がれ、目を覚ますことはなく安心して寝ている様である。「ケン様と申されます」と名を教えた。

「人がいるのに起きないなんて、何て鈍感なのでしょう」

 呆れたように溜息をつく。

「いえ、館の者は誰にも吠えませんし、近づいても目を覚ましません。識別出来る利巧な動物に……『改造された』からです」

 衝撃が杏樹女史に伝わった。


 改造された動物。


 意味する所は。


「どういう……」

「長くなりますが、説明させて頂きます」

 有無を言わさぬ言葉の攻めで、杏樹女史は黙って腕をさすった。

「あちら方向にある施設。旦那様がお勤めなさっている、化学研究所です。国家国有の施設、特別的な施設であるということは、『周知されている事実』だと思います」

「え、ええ、それは知っています」

 うろたえて視線の先にある、窓から見える山なりからミヤへと、向きを変えた。

「あそこでは様々な実験がなされていますが……鼠、鶏、豚、猫、犬など、実験対象となり、時々に運ばれて来ることもある様です」

「動物を?」

「はい。大概は番号を付けられるのですけど、可憐お嬢様がどうしても育てたいと仰っていて」

 可憐との出会いのことは言わない。事実関係とは異なるが、ミヤはそう伝えた。「旦那様は苦渋の末、寝室を分け、鎖を繋げておくようにとだけをご注意なさると、お嬢様に許可を与えました。ご存知の様に旦那様もお嬢様もひとりの身、寂しいお嬢様への温かい御心と御配慮で御座います」と心を痛めながら言った。

「可憐様には、ミヤさんやササキさんが居るではありませんか。私も」

 同情する様に、杏樹女史はミヤの肩に触れた。

「お嬢様の『病気』は不治のもの。それを思うと、私は、大変に心を痛めるのです……」

 ミヤの片目に光るものがあった。肩をさすり、杏樹女史はミヤの体を支えた。

「そういうことなの。分かりました、ケン、といいましたね。改造だなんて物騒だわ。人の身、又は娘の身の安全を考えての改良、何を気負うことが有りましょうか。可憐が育てたいというのならば尊重し、しっかりと私たちで見守っていきましょう。私に任せて大丈夫ですよ、どうか御安心なされて」

 安らかな寝息が聞こえる。ここには悪者は居ないのだと、「彼」が認めている。

 果たして、そうなのか。

 杏樹女史は、ミヤを連れて部屋のドアを閉じた。


『犬』に『改造された』狼、名をケン、と名づけられる。

 可憐にとってはペットであり、館の者や施設の者、ワイスにとっては所詮モルモット――実験用のサンプルにしかすぎず、同情の余地は、この時にはまだ、無い。



 一夜が明けて、可憐は起こされた。朝の定刻にいつもはミヤが起こしにくるのだが、まだ眠っている可憐を起こしに来たのは厳しい顔をした杏樹女史であった。鍵が掛かっていなかった為にノックの後に直ぐドアは開かれて、ベッドに横たわる可憐をひとつ睨むと、活気のある声を張り上げた。

「お起きなさい可憐! グズグズは許しませんよ!」

 被る布団を引っぺがすと、柔らかい可憐の体があらわになった。青に近い白、砂色の肌が色っぽく、長い棘のような従順な銀髪が、波のように美しく映える。美少女であることは誰もが認めざるを得ない容姿ではあるだろうが、と同時に、触れてはいけない禁断の園なのかもしれない。

 しかし杏樹女史にそのことは、全くの皆無であった。

「さ、早くお着替えなさい。今日から勉強ですよ! 遅れた分を取り戻すのです。ドイツでは、貴女くらいの歳の子は皆自立して、大学へ通って猛勉強なさっているのですよ!」

 語尾を強めて説教をする。可憐は寝惚けながら、耳へと突き抜けていく大声にウンザリしていた。乱れた髪を手で整えながら、軽く頷いた。「はい~」まだ寝惚けている。


 朝食の間で簡単に食事を済ませた後は、2階のバルコニーへ出て発声の練習、声を出して調子を整えてから、部屋に2人は落ち着いた。可憐が気になっていたのは、起きてから一目も見ていないケンのことであった。そのことを聞くと、杏樹女史は答える。

「心配ありません。ミヤさんたちが看ていてくれています。旦那様にも相談して、全ては私に一任すると仰って下さってましたから」

 そう、とだけ可憐は答えた。杏樹女史の頑固なまでの周到さに、可憐は従うしかないと諦めていた。勉強一点張りの杏樹女史に、珍しくワイスも信頼を置いているような気がした。

(ケンと遊びたいな……)

 ここ数日と、ケンの傍をピッタリとくっついて離れなかった毎日が続いた。言葉を教えたり、外で走り回ったり、一緒に食事をしたり、風呂にも入った。海外に居る友人から貰った帽子やお菓子、舶来品はこの時に日本にはまだ無かった物で、誰もが持っていないからというだけで鼻が高かった。くれた友人たちに感謝の意を込めて、ケンの前で手紙を何通も書いた。

 花で栞を作り、編み物をし、歌を歌いながら過ごした気儘で優雅で奔放な毎日。

 もう、当分は戻って来ないのかと知ると、途端に元気が無くなった。

「ドイツのお話をしましょう。いいですか可憐、貴女も堅苦しいことばかりでは、勉学も嫌になって飽きてしまうでしょう。ですから私も考えます。可憐、世界にはどれだけの民話や文学があるのかご存知?」

 可憐は関心を寄せた。

「世界に? 知らないわ」

「私も存じません」

 何だ、と可憐は口を尖らせて肩をすくめた。

「ですが、数えきれない程の数が在る、ということぐらいは、分かりますね?」

 それはそうよ、とまた相槌を打った。軽く咳払いをした後は、続き杏樹女史の談義である。

「ドイツで有名な言語・文学者でグリム兄弟が居ます。可憐、貴女も知っているでしょう? 有名ですから」

「はい」

「彼らがしたことといえば童話の編集ですけど、そもそも、彼らが手がけた背景には、文学についての運動がありました」

「運動?」「ドイツでね」「どんな?」

「ドイツならではの文学を見直そうという動きです。彼らは自分たちを大事にしますから、ドイツ固有の知的財産を守ろうという考え方ですわね。その為、彼ら以外にも編集された動きはありましたが、でもそれは、本々の、原作には程遠くかけ離れたものになってしまった。これではと、グリム独自で纏めたものが、グリム童話です」

 可憐はへぇ、と頷き、話に聞き入っていた。

「可憐はグリムのなかで、何のお話を知っているのかしら」

「え、と……。灰かぶり姫。狼と7匹の小ヤギ。ヘンゼルとグレーテル。いばら姫に、白雪姫、えと、それから」

 指折り数えながら悩んだ。

「あら。赤ずきんちゃんやラプンツェルは知らない?」

「ラプン? ……知らないわ。持ってる本には載っていなかった」

「じゃあお話しましょう。童話や説話には教訓的な意味を込め、創作性や心情面を抜きに事件と行動を重点に書いた物が多いのですよ。非日常的なことです」

「……豚が空を飛んだりすることかしら」

 可憐は言いながら想像してプ、と吹き出してしまった。

「そういうことね。ご都合主義にも見えるかもしれませんね。れっきとした文学でもあるのですけど」

 そう言いながら、杏樹女史は童話の「赤ずきん」「ラプンツェル」の話をした。

 赤ずきん、と呼ばれる赤ずきんをいつも被っていた可愛い女の子が居て、彼女は在る日近くの森に住むお婆さんの家へ食べ物とワインを持っておつかいに行くのだが、森で道中に腹ペコの狼に出会い、唆されて道草をしてしまう。

 何故狼が赤ずきんを食べずにそうしたのかというと、どうせなら赤ずきんとお婆さん、両方を食べてしまおうと思いついたからであった。道中で森の奥にお婆さんが居ると知った狼は、まずそちらを平らげてから……と、計算高く考えたようであった。

 何も知らない無垢な少女の赤ずきんは、狼に言われたまま、花畑を見つけて花を摘み、だいぶと遅くなってからお婆さんの家へと辿り着いた。途中で猟師と会いながら。

 赤ずきんが訪ねると、何とお婆さんは風邪をひき、ベッドで休んでいた。これは大変と赤ずきんが近づき心配する。「どうしてそんなに口が大きいの?」「それはね、お前を」

 そして赤ずきんを狼は襲った。

「食べる為さ!」

 狼はひと呑みで、赤ずきんを丸ごと食べてしまった。


 童話「赤ずきん」には諸説があり、原作に忠実に再現しようとしても資料が集められず不確かな物にしか成り得なかった物も多い。赤ずきんに限らず、世界には数多く存在する。

 人や時代によっては赤ずきんのその後は、お婆さんと共に通りがかった猟師に腹を割かれて助けられたり、又、助けられず食べられたままで物語は終わってしまったり……と、かなり違ってくる。

 重要なのは物語そのものではない。その物語による裏に隠された「意味」や時代背景である。

 結末のひとつに、安易に道草をした、親の言いつけを守らなかった赤ずきんが自分を悔いて反省する、というものがある。例えば、である。因みに、赤ずきんは初め、赤いずきんを被ってはいなかった。後で面白く付け加えられたものである。


「どうして狼はいつも悪者てきなのかしら……」


 ふと、可憐は疑問を口にした。杏樹女史の眉間に僅か皺が寄る。


「ねえどうして?」


 可憐は赤ずきんのように、無垢な顔を杏樹女史に向けた。「今日の午前の授業は、ここまでにしましょうね」と言った後、置時計の針が丁度、昼の12時をさす所になった。




《続く》




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