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「お世話になりました」


4日目の朝、俺たちは旅館の玄関先で挨拶をしていた。


なんだかんだありつつ、3泊4日の旅が終わりを告げようとしている。


そう…あの後もいろいろあった。


でも思い出すのも億劫だ。


てか思い出さなくていいと思う。



3泊4日ということで、GW自体はまだ残っている計算になるのだが、どうやら澪さんと真さんは明日から仕事があるらしい。


本当に忙しい人たちだ。


昨日、お酒に酔った澪さんに捕まって、延々とグチられた内容から得た情報によれば、一日でも早く珠姫と一緒に暮らすためにいろいろ前倒しの勢いで仕事を片づけているようだ。

珠姫と一緒のGW(全日)という誘惑に負けそうになったらしいが、それよりも一緒に暮らしたら、それこそずっと一緒だと思い、とどまったみたいだ。


……まあ、完全に誘惑に勝てなかったからのGW前日の拉致(?)事件なわけだが。

結局のところ、親戚一同に立てていた計画を潰されたことにご愁傷様と言うべきか。


「珠姫、本当に帰るのか?」

「珠姫だけでも残ったらいいのに」


澪さんと真さんが女将さんに挨拶している間にも、前述の会話が途切れず続いている。


……確かに珠姫はGWがまだ残っているのだから、引き留められるのも仕方ない。


「ちゃんと帰りは送ってやるよ。いいだろ?」

「まだこの辺りの散策終わってないじゃん!制覇しようぜ!!」


……頑張るなぁ。


「ここが飽きたのなら他のとこでもよいぞ?」

「前に話していた水族館とか行かないかい?」


………大人組(祖父母他)は物で釣ろうとしてますね。


別れの挨拶だしと離れて様子を見ているのだが、本当に凄い。

珠姫は様々な誘いに首を振るだけだ。

これだけ間を置かずだと、ちゃんと言葉にして断りなさいと言う気にもなれん。


「皇紀」

「大河か…楽しんで・・・・るか?」

「!…くっ…まあな」


一生懸命珠姫を引き留めようとしている自分の兄弟から何から、全てが大河を楽しませるものなのだろうと思って言ってみれば、案の定肯定しやがった。


たち悪いな、こいつも。


「で、悟りを開いたかのような顔をして目の前の光景を見ているお前は…呆れている?」

「……」


肯定するのもどうかと思ったので無言を通す。

バレバレだと思うが。


「あいつら全員、分かってないよなあ」

「……何が?」

「何って。分かってるだろう。珠姫が絶対誘いに乗るはずがないってさ」

「……まあな」


にやにやと笑いながら目の前の光景を眺める。


「『将を射んと欲すれば先ず馬を射よ』って言葉があることを教えてやりたいぜ」

「……やめてくれ」


大河の言葉にどっぷりとため息をこぼした。

大河はこう言いたいのだ。


たまきを引き留めたいのなら、馬(こうき)を引き留めろ」と。


的確だ。


きっと…いや、確実に俺がここに留まるならば珠姫はここに残る。


自惚れなんかじゃない。


代えることの出来ない事実だ。


じろりと睨んで牽制しておく。

大河が俺の言いたいことを察して笑う。


「言わねえって。自分の不利益になりそうなことはしない。これから・・・・よろしくな!」


なんとも自分本位な言葉を貰ってしまった。

言うつもりはないということに喜ぶべきか、それとも友人が(一癖二癖ありそうな)増えたことを喜ぶべきか。


「…なんとも選びにくい」

「あ?」

「……なんでもない」


あ。


従兄弟のひとりが珠姫の腕を掴みやがった。


俺が文句を口に出す暇もなく他の奴らに引き離されたが、一向に誘いに乗らない珠姫に、全体的に焦れてきたみたいだ。

すぐに澪さんに視線を走らす。


視線が交差した。


「ーー挨拶も終わったし、出発しますね」


真さんが素知らぬ顔をしてみんなに聞こえるように告げた。


「ま、待て!真っ!!」

「待てませんよ、お父さん。時間は十分にあげました。珠姫がうんと言わなかったんだから、潔く諦めてください」

「っ!…いや、そんなはずはない!遠慮しとるんじゃろう、珠姫?」

「遠慮してない」

「!?」


珠姫がきっぱり、はっきり、言葉にした。

これではあの雷蔵氏(祖父)も二の句が告げれないようだった。

口をパクパクさせて珠姫を見ている。


……最初の印象が薄れるな。


孫(珠姫だけ?)には形無しってことか…。


「珠姫、行くよ。挨拶しなさい」

「ん。…さようなら」


ぺこりと頭を下げてあっさりと珠姫は背を向ける。

みんなの顔がとても残念そうで、悲しそうだった。


「っ!…ええいっ!帰るのは許さんぞっ!!真たちは珠姫を置いて帰れっ!!?珠姫はきちんとGW最終日に帰すっ!!?」



うわちゃー…言っちゃったよ…あのじいさん……。



ああ…澪さんと真さんの周囲が急速に冷えていくのは錯覚か。

鳥肌たった。

腕を擦る。


「馬鹿じい…」


大河がボソリと呟いた。


「今日という今日は許せないわ…」

「そうだね…僕ももう無理かも……」



ひぃっ!!

澪さんと真さんがめっちゃ怖い!!!


2人一緒にキレるとか、最凶過ぎだろっ!!!



「ーー前にも言いましたよね。私たちは…珠姫はあなたの所有物ではない、と…」

「無理じいはもうしないというお約束でしたわ。今度同じことをしたらーー」


雷蔵(祖父)さんの顔色が変わる。

周囲の従兄弟から親戚まで顔色が青くなった。


リトマス紙も真っ青なぐらいの変わりようだ。


「「縁を切らせていただきます!!」」




……うええっ!!?


目の前で修羅場が始まっちゃったよ?!


どうすんの、これ???




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