08
無事式も終わり、俺はほっと一息ついた。
後は新入生が退場するだけ。
教頭先生がマイクの前に立つ。
「新入生退場」
ぞろぞろと新入生が入場してきた順で退場していく。
「宮ノ内、お疲れ様」
「いえ、無事終わって本当によかったです」
拍手を送りながら、俺たち生徒会役員の面々は苦労を互いにねぎらいあった。
年度替わってそうそうのハプニングに、今年1年を思って涙が出るかと思ったのだ。
「まぁ、まだ片づけがありますけどね」
「それは会長に率先して動いてもらいましょう」
「そうしましょう」
俺と星埜先輩は互いに共犯者の笑みを顔に上らせる。
その近くで居た遠山先輩は何故か固まってしまった。
なんか怖い物でも見たのだろうか?
そんな時である。
ガッターーーーーーンッッ!!!?
けたたましい椅子の倒れる音がして、新入生の退場していく列が止まる。
慌てて、俺たちは音の発生場所に視線をやった。
それは新入生が座っていたところだった。
「いったい何が…!」
「会長!」
俺が把握する前に、高知が先程までの間抜け面はなんだったのかというほどの凛々しい顔で、走っていくのが見えた。
音の発生源のところに走っていく高知のスピードに唖然とする。
「宮ノ内。どうやら彼女が関係しているようだよ」
冷静な星埜先輩の声に現状を思い出し、自分も輪になっている場所に近づいていく。
近づいて分かった。
どうも例の彼女が椅子から立ち上がる際に倒れてしまったらしい。
状況を把握しようとする俺をよそに、高知は素早いもので、もう輪の中心におり、例の彼女に声をかけていた。
クラスの担当となる教師も事態に気付いたのか先頭を離れてその場に戻ってきており、それを囲うように同じクラスらしき生徒たちがいた。
「大丈夫かい?気分でも悪くなったのかな?」
常以上の優しい声で、高知が話しかけている。
そして、彼女が立つのを手助けしようと手をさし出していた。
だが、彼女はその手を取ろうとはせず、自分であぶなかしいながらも立ち上がる。
しかしすぐに膝をついてしまうのが見えた。
教師も何かしら話しかけ、手を差し出すが、彼女は一向にその手を取ろうとはしない。
「どうして手を取らない?」
「嫌なんだろうね」
無意識にでた疑問の声に返事が返ってくるとは思わず、ギョッと声のした方を見る。
そこには星埜先輩と遠山先輩。
星埜先輩はなんだか分かっている様子で平然とその様子を見ている。
「嫌っ!触らないで!!」
突如、切羽詰まった声が響き驚いた。
そこには例の彼女に近づき、起き上がらせようとして拒否された高知がいた。
「おいおい…無理じいか?」
無理に触ろうとした高知に気付き、眉間にしわがよる。
「まぁ、いつまでも退場の列を止めておけないしねぇ…」
星埜先輩の声が後ろから聞こえてくる。
「しかし星埜先輩、嫌だって言っているし…」
「でも自分では動けないんだよ。仕方がないじゃない」
「…」
星埜先輩の言い分も分かる。
けれども何故か全てを納得できなかった。
教師も高知も彼女を扱いかねて困っていた。