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「…分かりました。珠姫に澪さんと違う、ちゃんとした画像を真さんに送るように言いま―」
『分かってないよ!皇くんっ!!』
今度はなんだっっ!!!!
さすがに疲れてきたぞ。
「回りくどいのはもういいです。はっきりと言ってください。俺にどうして欲しいんですか?」
『…』
「真さん?」
『……』
「もしもし?」
『………撮って』
「はい?」
『こ、皇くんが撮った珠姫の写真が欲しいっ!』
「…ええと……俺が撮った珠姫の写真というと、俺が写真を撮って、真さんに添付つきメールを送ったらいいということでしょうか?」
『!っうん!!』
やっといつもの晴れやかな真さんの声。
さっきの言葉を言うのにどれだけの時間を費やすんだこの人は…。
『皇くん?』
「…分かりました。真さんのためだけに珠姫の写真を撮って添付つきメールを送ります。それでいいですね?」
『うんっ!ありがとうっ!!皇くんっ!!!大好きだっ!!!?』
ちょっ声が大きい!
耳が痛いぞ。
「…はいはい。俺も真さんのことが大好きですよ。じゃあ、切りますよ?」
『うんっ!期待して待ってますっ!!』
やっと終った。
やれやれと意識を電話から戻して俺は先程と同じように固まった。
いや、さっきと違って珠姫は横にいない。
なのに、全員の視線が俺に突き刺さる。
「いやぁ~ラブラブだな」
大河の声が妙にその場に大きく響いた。
自業自得とはいえ、空気が重い。
つい真さんのテンションに巻き込まれていつものように返したのが失敗だった。
女性陣(美佐と千里だけだが)の何かを期待するような目が痛い。
話の流れで分かると思うんだが、何故こんな微妙な空気が漂っているんだ!
真さんの声は大きかったからあらかた聞こえていたはずだと思うんだが。
…過ぎたことは仕方がない。
それよりもだ。
さっきの真さんとの約束だ。
珠姫の写真を撮らねばならない。
せっかく今珠姫がいつもと違う服装でいるのだから撮らない手はないだろう。
珠姫と視線も合った。
「皇ちゃん?」
トコトコと歩いてくる。
珠姫だけは先程の真さんとのやりとりは気にしてないみたいだ。
当たり前だ。
よくあるやりとりだ。
「写真を撮るぞ」
「ん」
コクリと頷く珠姫に和む。
頭を撫でたい衝動に駆られたが、ここはグッと我慢だ。
また部屋に戻ったら撫でよう。
「珠姫、あそこに」
「ん」
俺が真さんご所望の写真を撮ろうとするのが分かったのだろう。
珠姫の元に行きかけた従兄弟殿たちが動きを止める。
それどころか、邪魔にならないように横に退く気遣いまで見せてくれた。
ブラヴォーとか叫んだら多分殺られるな…。
…冗談だ。
ちょっと疲れてきたのかもしれない。
…。
…さっさと撮ってしまおう。
「珠姫、携帯見て」
「ん」
大きさはこれぐらいか?
全体像が写るのを1枚パシャリと撮る。
後はバストショットか?
しかし…。
珠姫の顔は無表情。
こんな写真で真さんは満足するのか?
否、きっと満足しないだろうな。
俺を指名で珠姫の写真を撮れと言っていたんだから。
俺なら他とは違う写真が撮れるはずだと真さんは期待してる。
そして俺はそんな写真が撮れるだろうって、うぬぼれではなく思っている。
問題は、ここに俺以外の奴らがいるってことだろうか。
今からすることはちょっと従兄弟殿たちに果たし状を叩きつけるような行為なのではないかと心配だ。
でも、こんな姿の珠姫は今しか撮れない。
ならやるしかない。
勿体無いけど、見せてやる。
「珠姫、笑顔」
俺の言葉に端に避けてた従兄弟たちがざわつく。
どこかで嘲笑うような雰囲気を感じた。
でも気にしない。
「笑顔?」
「そ、笑顔」
「…」
珠姫が考え込んでる。
考え込む必要なんてないのに。
「珠姫」
「ん?」
「珠姫の笑顔、俺好き」
「好き?」
「そう。珠姫の笑顔が好き」
「好き…」
俺の言葉を咀嚼するように繰り返したその一瞬後、珠姫の顔にゆっくりと笑顔が広がっていく。
周りが先ほどと違った風にざわついた。
声を詰まらせたような音が聞こえた。
でも、それどころではない。
パシャリ
珠姫の笑顔を写真におさめる。
うん。満足できる一品です。
珠姫の笑顔もゆっくり消えていく。
そのことに周りから惜しむ声が聞こえるが、もう一度珠姫を笑顔にするつもりはない。
心が狭い?
そうだよ。
申し訳ないけど、珠姫の従兄弟殿たちと珠姫をつないでやる気なんて俺にはこれっぽっちも無い。
少しの間だけど、一緒にいてそう思った。
俺は架け橋になろうなんて思えない。
自分たちで頑張れば?って感じ。
冷たくてごめんね?




