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いろいろと問題になったあの画像を撮った時のことが頭をよぎる。
周囲が凍る。
珠姫はあの時のように抱き返さない俺に文句があるのか、俺の顔を無言で覗きこんでくる。
勘弁してくれ!
流石にこれ以上殺意光線バリバリの視線は欲しくない。
珠姫の視線に負けずに見ていれば、珠姫が首を傾げた。
可愛いな、おい!
心の中で突っ込んだ。
いつまでもこのままでは状況が悪くなる一方だと思い直し、前みたいに抱きしめるのは無理だが、落ちないように腰を抱くように腕を回した。
なんとか納得してくれたのか、珠姫が大河のほうを(この場合は携帯のほうか?)向く。
「大河、撮ってくれ」
「あ…っああ」
俺と珠姫のやりとりをボケッと見てた大河が慌てて携帯をかまえる。
カシャ
シャッター音が鳴り、写真が撮れたことを告げる。
すぐさま珠姫を下ろす。
こんな状況でそのまま珠姫を膝の上に置いておくなんて出来るはずもない。
珠姫も素直に膝から降り、大河から携帯を返してもらう。
「あー…なんかメール来てたみたいだぞ」
大河が口を開いた。
どうやら先程画面を操作したときに気付いたらしい。
珠姫がまだ慣れない手つきで携帯を操作する。
「誰からだ?」
聞けば、珠姫が顔を上げる。
「お母さん」
「澪さんか…」
珠姫が携帯を差し出してくるので覗き込むと、旅館に缶詰状態の澪さんからの愚痴メールに近かった。
辛うじて、今何をしているのか問う言葉が最後の行に書いてあった。
「返信してやれ」
「ん」
珠姫がまたぎこちなくボタンを押していく。
そんな姿を見て、ふと先程の画像を缶詰状態でイラついている澪さんに送ったらどうだと思いつく。
「珠姫」
「?」
「せっかくだから、さっきの画像、澪さんに送ってやれ」
「ん」
急かすわけでもなく見守っていれば、ゆっくりながらも手は動く。
何度か添付つきのメールを澪さんや真さんに送っているので、珠姫が俺に助けを求めてくることはない。
「送った」
「よし」
珠姫の声と共に視線を戻して、方々から注がれる視線に固まった。
ああ……忘れてた。
珠姫の携帯に注がれる熱い視線と、今までの俺と珠姫のやりとりに思うところのある敵意に満ちた視線。
そして、面白そうにこちらを見る大河の視線がそれぞれ突き刺さった。
くっ!うぜぇぇ!!!