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思った通りに真さんは出てきた。
トイレの中で泣いていたようで目が真っ赤だ。
そんな真さんを見て、澪さんの目がキラキラ輝いているのをまたタイミング悪く見てしまった。
……本当にこの人は。
「今日はどうするんですか?」
やっとテーブルの前に落ち着いて話し合う。
「僕たちは用があるんだ。皇くんと珠姫は自由に過ごしてくれてていいよ」
「周辺散策してきてもいいし、ちょっと遠出してきてもいいんじゃないかしら?」
真さんはニコニコと。
澪さんは自分もついていきたいと言いたげな顔をして。
ていうか、泣いてたはずの真さんがもう通常通りだ。
慣れてるんだな…。
「…えぇと、遠出ってのは?」
「送迎してくれるらしいから、それこそ旅行者が行くような観光スポットに行ってみたり?」
送迎付とはいい待遇だ。
しかし、出掛けるのもちょっと面倒くさいというか……。
だらだら過ごして、ちょっと周辺を散策するくらいでよいようなと考えていれば、澪さんがさらりと言葉の爆弾を投下してきた。
「ここにいれば、多分親戚類がなんやかんやと誘いに来たり、顔見に来たりとかするでしょうね」
おい。
「過去に親戚一同集ったときも凄かったわよ~。珠姫は興味無しだから断っていくんだけど、皆諦めることを知らないっていうか、物を変え、品を変えで、時間を空けずに誘いに来るんですもの」
…おい。
「今回はもっと凄いのかも?朝のときに皇くんが大河くんに誘われて朝食を食べたときに珠姫もついていったでしょ?察しのいいところはターゲット変えてくるでしょうね」
……おいっ!
「普通に誘ってくるならまだマシかもしれないけど、もしかしたら多少強引に来るかもしれないし――」
「…すっごく観光してきたくなりました!ええ!!」
もうたくさんだっ!!
「分かったわ。じゃあ、珠姫、お洒落しましょうね♪」
嬉々として立ち上がる澪さん。
あれ?
俺はのせられたのか?
澪さんの声がとても楽しそうで、それに珠姫も微笑んでいる。
いつもの無表情に近い顔よりは断然いいので、もういいやと思った。
てかそう思った時点で俺の負けだ。
澪さんと真さんに見送られて、こっそりと宿を出た。
そう、こっそり宿を出たつもりだったんだが……。