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いつの間にか眠りこけてしまっていた俺は――
「すいません……」
現在、謝っていた。
誰に?
それは――
「もうっ!マコったら、それくらいにしときなさいよ」
……真さんにだ。
まあ、うん…当然のことだと思う。
朝食から帰ってきてみれば、彼の愛娘を抱きしめて俺ががっつり寝ているのを発見してしまったのだから。
親からしたら怒ってしかるべきだ。
うん。
殴られてないだけマシかもしれない。
「うう…だって、澪さん…」
恨めしげに真さんが澪さんを見る。
その瞳には涙が浮かんでいる。
ああ、そんな顔で見上げたら……!
澪さんの顔に凶悪な笑みが一瞬浮かんで消えたのを運悪く見てしまった。
「――別に昨日だって珠姫が皇くんのお布団に潜り込んでいたじゃない。今回も同じことでしょ」
「え…あ…」
「珠姫は嫌がるどころか、喜んでいたのに――」
「ううっ!」
「さっきの見たでしょ?邪魔されて怒った珠姫の顔。……嫌われちゃうかも?」
「っっ!!?」
「『パパ嫌い!』とか言われちゃったらどうする?」
「っっっ!!!!!!!?」
うん、澪さんの鬼畜心を刺激してしまったようです。
珠姫の声真似までして、すごい力の入れようですね!
真さんの目には今にも落ちそうな涙が盛り上がっている。
「…パパ嫌い?」
ちょっ!!?
珠姫、いつもは余計な口を開かないよい子だと俺は思っていたのに、何しているんだっ!!
無駄にタイミングがいいぞ…。
疑問系とはいえ、珠姫の口から出てきた言葉に部屋の中が静まり返ったのがなんともいえなかった。
「マコ、さっきのは冗談よ。珠姫がマコを嫌いになるはず無いじゃない」
はい、真さんはあの後ショックでトイレに籠城しました。
ここ数十分、トイレの前で澪さんが説得してます。
自分で追い詰めておいて、何がしたいんだろうなあ…?
「もう~~~……皇くん、どうにかして!」
おっと、丸投げですか?
しかし、確かにトイレに籠城するのもそろそろ終わりにして欲しいとは思う。
なので、簡単な解決策を実行する。
「珠姫」
「ん?」
「『お父さん、出てきて』って言って来い」
「ん」
『すぐ出てこないと本当に嫌いになるから』って言わせないだけ、俺は優しいと思うがどうだろう?
澪さんだったら容赦なく実行するだろうからな。