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「クク……あ~面白れぇ~」


隣の席で楽しそうに大河が笑っている。

不思議の国のアリスに出てくる縞模様の猫みたいな笑い方をする奴だ。



あの猫なんて名前だったか……。



こんな笑みを浮かべるところがこいつの胡散臭さに拍車をかけてる。


なんて言うか、その笑い方が似合いすぎて嫌だ。



大河は、真さんの兄弟(次男)の子どもで、末っ子だそうだ。

俺と同い年で、最初からすごくフレンドリーな奴だった。


それに、俺的にありがたいのは、珠姫の信者(?)じゃないところだ。


他とは違った珠姫に興味はあれど、独り占めしたいなどの熱意はない。


結論を言うと、今のところ大河は俺にとって無害だということだった。



…胡散臭い笑みが似合う奴でも。




大河の横に座った俺に、同じテーブルに集うメンバーの視線が刺さる。


他のテーブルよりはマシだが。


さっきは気付かなかったが、同年代か、俺たちより少し上ぐらいの女が2人いた。

俺の推測が正しければ、話に聞いた次男と三男の娘たちだと思う。

あからさまなほどに興味深々な目を向けてきている。

こんな手合いの相手は面倒だと経験から知っていたから、何気ない風を装って朝ごはんに視線を移した。


目の前の食卓に目を向ければ、現金にも周囲から突き刺さる視線を忘れてしまった。


さすがに昨日とは違って、朝ご飯と言うに相応しい品数のおかずだったが、ちょこちょこと小皿に盛られたおかずの質が普通の旅館との差をつけていた。


傍に控えていた女中さんがご飯をよそってくれる。

まずは珠姫に渡して自分の分を受け取る。

手を合わせていただきますと言えば、珠姫がそれに続いた。


だし巻き玉子をひとつ口に放り込む。

次に味噌汁に口をつける。

上品な味付けに口元が弛んだ。


ツンと袖口を引っ張られる。


袖口をひっぱった犯人はじっと俺を見る。

次いで自分の前の皿を見てまた視線をこちらに向けてくる。


それで分かった。


焼き魚だ。


珠姫は焼き魚を食べるのが苦手だった。

食べるのは嫌いじゃないのだが、気付けば上手いこと身をほぐすことが出来なくて皿の上を凄い惨状に変えるのだ。


宮ノ内家でも焼き魚は出る。

もっぱらその身を食べやすいようにほぐすのは俺の役目で、つい前に珠姫が起こした惨状を思い出して苦笑し、珠姫の焼き魚の身をいつものようにほぐした。


じーっとほぐされた身を見るだけで珠姫は動かない。


まったくものぐさな奴だと思いつつ、ほぐした身を珠姫の口元に運んだ。

さもそれが当然だといわんばかりに珠姫がパクリと頬張った。


「……」

「……」

「……珠姫、箸を噛むな」


軽く引っ張ったくらいでは箸が戻ってこなくてため息が零れる。


よくある仕草だ。


行儀悪いぞ、珠姫。


呆れながら箸を左右に揺らす。


そうすれば、珠姫は箸から口を離した。


やれやれと自分の食事を再開しようとしたが。



「いや~仲がいいな」



横から聞こえた声に我に返った。


声は大河のもの。


固まった思考を無理やり動かす。





今、自分は何処に居る?





気のせいじゃなく先ほどより余計に刺さる人の視線。






自分のうっかり具合に軽く絶望した。





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