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……疲れた。
おかしい。
どうして俺はこんなに疲れているのだろうか。
本当だったら、今頃は行き辺りばったりで選んだそこそこランクの高い旅館に着いて、それなりに美味しい料理に舌鼓を打ち、まあまあ絶景の温泉で1日の疲れをとっていたはずだった。
なのに、現実は、旅館は旅館でもそうそうお目にかかれない高級旅館へ来て、海の幸、山の幸を贅沢に使った夕食をとってたりする。
まだ行けてないが、きっとここの風呂も予定していた場所には申し訳ないが、雲泥の差の素晴らしき景色が俺を迎えてくれることだろう。
今の方がお得だろうと端から見ている他人には言われるかも知れない。
俺だって、他人事だったらそう言う。
だが、当事者になってしまったら、そんなことは言えないはず。
食事があらかた終わったのにも関わらず、退出することも出来ず、人の視線の中に晒されているこの状況は絶対いいものではない。
これ以上見つめられたら、俺の身体は穴だらけになってしまいそうだ。
ピピピピピ…。
「!」
ポケットに入れていた携帯が俺の限界を知っていたかのように鳴り出した。
不覚にもビクリと身体を揺らしてしまった。
慌てて取り出してディスプレイを見てみれば、表示されているのは母さんの名前。
「…澪さん、母から電話が来たんで、ちょっと退出します」
「亜紀ちゃん?そっか、もうこんな時間だものね。分かったわ。もう食事も終わったし、電話終わったら部屋に行きましょうか」
「すいません。じゃあ、ちょっと――」
腰を上げて立ち上がる。
携帯を片手に、一応奥の方に座っている藤路さんに退出するための意を含んだ会釈をして、大広間のようなこの部屋の入り口に向かった。
途端、どよめきが追ってくるようにあがる。
何事かと思えば、無言で俺に付いてくる珠姫の姿が後ろにあった。
ついでに言えば、珠姫が俺の服の裾を掴むおまけ付きだ。
果たして俺の安住の地はあるのか…。
『遅い!もしかして、お母様に連絡も入れず、温泉に入ってたんじゃないでしょうね!?』
「…」
母さんは夜も絶好調なようだ。
なぜだろう。
限りなくホッとするのは。
……やっぱりかなり疲れているらしい。
携帯からマシンガンの如く聞こえてくる母さんの声を聞きながら、俺は近くにあった柱にもたれ掛かった。
そんな俺の背中にかかる重さ。
当たり前だが、珠姫だ。
疲れているので、このまま放置の方向だ。
拒否さえしなければ、珠姫はおとなしいのだから。
『で?何かあったんでしょ?』
サクサク話しなさいと言わんばかりの母さんの口ぶりに、ため息が口を突いて出る。
「…母さん、いつからエスパーになったんだよ」
『そんなの決まっているでしょう!皇紀のお母さんになってからよ!!』
「俺のせいにしないでくれ…」
『失礼しちゃうわね。皇紀のせいになんてしてませんよ~だ!』
母さんが日々ハイテンションを保てる秘密は何なのだろうか…。
母さんの勢いに押される形で、今日の経緯を話していく。
俺が話始めれば、黙って聞き役に徹するところはさすがだと思う。
『あっはっはははっ!!さすが皇紀ね!』
「…」
最後に大笑いなどせず、労ってくれれば完璧なんだが…。
全てがこれで台無しだ。
残った体力まで奪われていくようで、がっくりと肩を落とした。