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止めなければ何処までも俺賛美をしそうな澪さんを止めてくれたのは、いつもは頼りなさそうな(…すんません)真さんだった。

うまいこと(…ってもう手遅れ?)切り上げて澪さんを引っ張って移動する。

それについて移動したわけだが、とても背中が痛かったと言っておこう。


直接的意味ではなく、間接的意味で。



「皇くん、ごめんね」

「…もう終わってしまったことですから」


真さんが八の字眉毛を装備して俺の前にいる。


…ひどいや、真さん。そんな顔されたら悪態の1つも吐けやしない。


真さんは悪くありませんと付け加えれば、涙に潤んだ瞳でお礼を言われてしまった。


なんて言うか、そんな顔が似合う30代後半は反則です。


きっとこの顔が澪さんは好きなんだろうな。


意味もなく思う。


何故そんなことを考えているのだろう。

逃避と言われても否定できない。


「お腹空いてるだろう?遠慮せずに食べていいからね」


俺への謝罪?お礼?も終わって、真さんは他の親族さんに挨拶するのに席を立っていった。

澪さんもそれにすんなり続く。


どうやら澪さんは、真さんの父である藤路さんにだけ思うところがあるようで、他の人には笑顔で挨拶しているのが見えた。


珠姫と2人置いていかれて目の前のなかなか立派なテーブルに目を向ける。

所狭しと料理が並ぶ。


海の幸に山の幸。


見た目にも鮮やかな料理の数々に、空腹を思い出す。


人の目は、まだなんぼか自分に向かっている。


それでも、目の前のご馳走に意識を向けられるのだから、俺も大概にして図太いものだと心の中で笑った。


「…飯、食うか」

「あれ食べたい」


俺を逐一見ているんじゃないのか、と言いたくなるほどに絶妙な感じで珠姫が口を開いた。

それも、言ってることがおかしい。


「あれ食べたい」


食べればいいと思う。


真さんもどれでも食べていいと言っていた。


しかし、珠姫の言うその意は、俺には判り過ぎるほどに判ってしまう。


珠姫の言うそれは、取ってくれという意味だ。


てか、自分で取れよ!


……と言えれば簡単なのだが、本当に実行すれば、最近お馴染みの押し問答が発生するのは確実だ。

それは面倒くさかった。

それじゃなくても精神的に削られているのに。


結局、俺は珠姫の望むように、取り皿に珠姫の所望する食べ物を取り分けた。

ついでに食べそうなものと、食べさせておこうと思ったものを。


珠姫は好き嫌いがあるわけじゃないが、誰かが取り分けておかなければ結構極端な食べ方をする。

なので、日々バランスのよい食事を取りなさいと主張する母親の命令通りに俺は珠姫にバランスを考えた食い合わせをさせるべく皿に盛る。

皿に盛って渡せば、確実に珠姫は食べるからな。


うむ。そんなところはよい子である。


何皿かに取り分けて満足した。

珠姫の前に置いて促す。

行儀よく待っていた珠姫が箸を手に挟んで挨拶をした。


「いただきます」


ペコリと珠姫が頭を下げる。


これも毎日の教育の賜物だった。


食事を始めた珠姫を少し見守って、俺も食事を始める。

抜かりなく珠姫のものと一緒に、俺の分の食事も取り分けといたからな。


最初に刺身に手を伸ばす。


「!」


こりゃすごい。


とれたてを捌いたのだろう。

身がプリプリとして脂がのっている。


俺は口元を緩ませる。


これは、他の料理も期待できる。


辺りの喧噪も忘れて、俺は珠姫と一緒に豪勢な食事に舌鼓を打つのであった。



そんな俺たちを見て、真さんの親族の人たちがいちいち驚いてどよめいていたのだが、それは俺の預かり知らぬことである。




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