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「皇くん、この人が僕の父の藤路雷蔵」
「―こんばんは、宮ノ内皇紀です」
「…うむ」
……。
…………気まずい。
視線を真さんのお父さんだという藤路さんの鼻に固定する。
うん、しっかりとした鼻です。
…て、変なコメントを心中でしている場合ではないだろう。
そうは言っても、ここまであからさまにこいつは何者だと言わんばかりの視線でねめつけられたら、誰だって現実逃避がしたくなって当然だと思うんだ。
100パーセント珠姫との関係を聞きたいのだろうと分かってはいたが、はっきり聞かれたわけでもないのに答えるつもりはない。
――まあ、聞かれても1から10まで丁寧に答える気もないが。
どうしてかって?
そりゃあ、この場所に来てから少ししか経ってないが、珠姫に対しての周りの反応がいちいち大きいのだ。
そんなところで、仕事で未だ引っ越しの完了してない澪さん達の代わりに、珠姫をうちで預かっていることを必要に迫られて説明したとしても、俺の家での珠姫の行動は言う気にはなれない。
考えてもみてくれ。
もし珠姫が今俺と毎日一緒に寝ていることなど知れたらどうなるか。
最悪の結果しか浮かばない。
明日の朝日は拝めないぜ!なBADなエンディングしかない。
こんなところまで来て、珠姫ラブ(?)な視線に晒されるとは思ってなかった。
今も背中にはズクズクと当たる視線が痛くてしょうがなかった。
なので、俺からは出来るだけ珠姫の家での状態など言うつもりはない。
…そう。俺にはそのつもりがないが、俺が言わなくてもばれる可能性は大だった。
分かってた筈なんだ………。
「――つかぬことを聞くが、君は珠姫の何かね?」
きなすった。
予想以上にストレートにきた。
聞かれてしまえば、答えるしかない。
俺が珠姫の何かと聞かれればそれは――
「珠姫の大切な人です!」
……。
…………。
俺が答える前に澪さんが仰ってくださった。
俺の言おうとした言葉とは全く違うことを。
珠姫が視界の隅で頷いているのが見える。
俺にどうせいっちゅーんだよっ!!
結論から言うと、何も言えませんでした☆
……すいませんねぇ。
ちょと壊れてました。
俺が否定をする暇も何もかも澪さんは与えてくれませんでしたよ。
ええ!(自棄)
あんたは俺の崇拝者かっ!って言いたいほどに俺を誉めちぎってくださり、いかに俺が珠姫にとって重要かってことを、これまた素晴らしいほどすべらかな舌で語ってくださりました。
感謝なんてしませんよ?
有り難迷惑ですから。
そして案の定、澪さんの賛辞を大袈裟というか、まったく真に受けてない顔で俺を厳しい目で見る藤路さん。
本当に気が滅入りますから勘弁してください。
ダレカタスケテー(やる気なし)