表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/121

06





「おい」

「…」

「おい、高知」

「…」


式を妨害しない範囲の音量で先ほどから声をかけているが、一向に高知は反応を返さない。彼女が座っている場所から視線が固定されている。


(やっぱり一目惚れじゃねぇかよ…)


すっかり恋する男に成り果てた、生徒会長をどうしたらいいのか皆目見当がつかなかった。


「宮ノ内」


反対側から声を掛けられて、ハッと意識を戻す。


「遠山先輩…」


遠山先輩の席は俺の横だ。

ずっと俺が高知に声をかけていた様子に、異変に気付いたようだった。

心配した顔の遠山先輩がこちらに視線で問いかけていた。


「どうした、問題か?」

「ええ…かなりやばい状況かもしれません」


冗談など言える気分でもなく、藁にでもすがるように遠山先輩を見て掻い摘んで事情を話す。

一応?高知のプライドを潰さないように遠山に話し終えると、遠山が開いた口がふさがらないといった表情とぶつかる。

俺と同じような心境になって頂けたようで、喜ばしい限りだ。

しかし、そうしている場合でもない。


「思いっきり叩いてみたらどうだ?」

「効果ありそうですが、それでは式を妨害するかと」

「ううう~…つねってみたらどうだ!」


名案だとばかりに遠山の顔が輝いた。

確かにそれなら式を妨害せずに何とかなるか?

いや、最悪痛みに叫ばれたらどうするか…。

グラグラとその後の展開を考えてみたが、つねる以外の選択肢が出てこなかった。


「はぁ…じゃあ、やってみます」


叫ばれそうになった時のために口を塞ぐ手を用意して反対の手を高知の腕に近づける。


ギューーーーーーーーッ


腕の肉を力いっぱいひねる。


しかし、期待した反応は無い。

…どんだけ見惚れんだよ。


「駄目です」


もうお手上げだという風に俺は遠山先輩を見る。

遠山は眉を寄せて困り顔だ。


「高知は外に出しましょう」


思わぬ助けの声は、遠山先輩の隣から聞こえてきた。


「星埜先輩…」

「星埜」


遠山先輩の隣には、これまた3年の星埜ホシノ 慧士ケイシ先輩が座っていた。

役職は会計である。

生徒会に入った理由は俺たちと同じだ。

外見的には遠山先輩と反対な感じ。

遠山先輩が体育部長なら、星埜先輩は文化部長の方がしっくりくる。

まあ、会計も似合ってるが。

1つ付け加えておけば、ひょろりとした体躯ではない。

つくとこにはちゃんと筋肉はついている。

――いつ見たんだとかそういう突っ込みは無しで頼む。



「もう今日は役に立たないでしょ」

「…」

「しかしだな、星埜」

「それか、外には出さないけど在校生挨拶は代理を立てるとか」

「…誰がやるんですか?」


嫌な予感が最高潮まで高まっていた。

恐る恐る聞く。


「そりゃあ、会長が駄目なら副会長の君でしょう。宮ノ内?」


上品な笑顔付きで言われてしまえばもう自分に選択肢は無い。

相手は3年。

俺は2年だ。

こんな時は、役職名より年功序列の方が、力がある。

がっくりと肩を落とす。


「宮ノ内…」


唯一の救い?は、自分を慰めるように肩に置かれた遠山先輩の手と、同情的な目だった。

…同情的な目は余分か。


「井川先生」


進んでいく入学式。

俺たちの前に座り、舞台に立った校長先生の話を聞いている生徒会顧問の井川先生に声をかける。


「どうした?」

「ちょっと…ハプニングがありまして…」

「うん」

「会長がするはずだった在校生挨拶ですが、副会長の俺がすることになりました」

「!?」


井川先生が目を瞠る。

それはそうだろう。

今は式の真っ最中なのだ。

前を気遣いながらも後ろを向いてくる。

どうしてか問おうと口を開こうとしたので、高知を指差してやる。

見てもらった方が早い。

指差す方にいる高知を見て、井川先生も絶句し、俺を見る。


「こんな状況で…。何とかならないかいくつかの方法を試したのですが、この状態のままです」


フォローも浮かばなくなり、俺は苦く笑った。

その笑いに何かを感じ取ってくれたのか、井川先生は力強く頷いてくれた。


「よろしく頼む」


これで了承は取れたんだが…。


はぁ~。


もう溜息しか出てこない。

高知の作った挨拶の原稿を握り締めながら、重い溜息を俺は吐くのだった。







評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ