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「遅い!」

「待ってたぞ~!!」

「お先はじめてま~す」


…どんなカオスだ、これは。


女将に先導されてたどり着いたそこは、ちょっとした宴会場となっていた。


あちこちから声がかかる。

一番後ろについていた俺には全貌は見えなかったが、けっこうな人数ではなかろうかと思う。


「…遅くなりました」


色んなものを飲み込んだかのように一瞬沈黙し、口を開いたのは真さんだった。

ソッと澪さんを伺い見れば、ある程度は取り繕っているが、見るものが見れば明らかに不機嫌であることが分かる暗い雰囲気を漂わせていた。


珠姫はー…うん、いつも通り何を考えているのか分からない表情のままだ。


「真…こっちに来い」


俺が筒井家の様子を観察しているところに部屋の奥から渋い威圧感のある声が全ての音を突き抜けるように聞こえてきた。


その声が聞こえたと途端、澪さんの雰囲気が尖ったのが分かる。


澪さんがここにくるのが嫌だといった原因の一端を掴んだような気がした。


「はい…」


真さんが部屋に入っていく。

それに澪さんが続くのかと思いきや、澪さんは続くことはなく、部屋の入り口の立ったままだった。


どうしたものかと思ったが、俺に選べるような選択肢はもともとない。


そのまま澪さんの後ろで、直立不動で佇む。


真さんの長身が退いたものだから部屋の中が先ほどよりも見えやすくなる。

それは、俺にとってうれしくない状況をも招いた。

俺が部屋の中を見渡すことが出来ると言うことは、部屋の中の人たちからも俺が見えると言うことなのだ。


「誰だ、あれ?」

「あら、格好いい子ね」


たちまち注目を浴び、俺の心ががっつりと磨耗するのを感じた。


ここからすぐにでも立ち去りたい。立ち去らせてくれ!


心で叫ぶ。


俺の心の声が聞こえたはずはないと思いたいのだが、逃がさないといわんばかりに珠姫が俺の服の裾を掴んだ。


ちょっとビビった。


幸い、澪さんの陰になって、珠姫のその動作は人目に触れることはなかった。


「お前たちもこちらに来い」


またあの渋い威圧感のある声が部屋の奥から聞こえた。

やっぱり真さんに続くべきだったらしい。


澪さんの身体がかすかに震えたのを見てしまった。


だが、澪さんにかける声もなくその後ろに立っていれば、澪さんが渋々と、とても緩慢な動作で部屋の中に足を踏み入れた。

今度は珠姫がそれに続く。

その珠姫に服を掴まれた俺も否応なしに部屋に足を踏み入れることになり、澪さんという壁がなくなったことで、珠姫が俺の服の裾を掴んでいるという事実まで明るみ(?)に出ることになった。


さっさと珠姫の手を外しておくべきだったと後悔した。


どうして後悔したのかと言えば、部屋の中にいた人たちが一斉に喋るのをやめ、俺の服を掴む珠姫の手を凝視して固まってしまったからだった。


この手に何かあるのか?!


凝視するのをやめてほしい。


いや、それ以上に、睨むのをやめてくれ。


切実に思う。


全員が睨んでるわけではない。

大抵は凝視で済んでる。


…それもどうかと思うが。


左側に集っていた若い集団が俺を、敵を見るような目で睨んでいた。


しかし、視線を集めるに至った原因の珠姫は、気にする風もなく、澪さんの後に続き、裾を掴まれた俺も引っ張られるようにしてついていく。

その間、必死にその集団から視線を逸らした。


珠姫は視線に気づいているよな?


…さすがに。


いや、珠姫なら気づいてなくてもおかしくないか…。



視線が未だ俺の服の裾に集まる中、珠姫の手を無理矢理外す勇気はなかった。


俺たちが奥に進んでいくのと一緒に、視線もついてきて泣きそうになる。


…さすがに本当に泣くことはないがな!




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