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パタン
車から降りてまず伸びをした。
固まった筋肉が伸びて気持ちがいい。
車に揺られること3時間弱。
やっと、目的の場所に着いたようだ。
…しかし、どうにも長時間の移動で結構体力を持っていかれたような気がする。
ご飯を食べて、今日はもう寝たいと思う俺は、年寄りなのだろうか?
ここで「年寄りだ」と、もし誰かに言われたら落ちこむかもしれん。
反対に認めてみるか?
本当にどうでもいいことを考える。
つい現実を直視したくなくて、こんな無駄な考えに没頭してたりする。
そう。
目の前の状況がよく分からないんだ。
いや。
分かりたくないといった方が真実に近いだろうか。
「「「いらっしゃいいませ~」」」
明るい声が辺り周辺に広がる。
乗ってきた車の鍵を受け取った従業員がさっさと車を移動させていく。
目の前には多くの同じお仕着せの男女が並び笑顔でこちらを見ている。
その真ん中には、これぞ和風美人と認めるしかない着物を着た女の人が、これまた輝かしい笑顔で立っていた。
「本日は、近江屋にお越しいただき、まことにありがとうございます」
和風美人がしゃなりと頭を下げれば、それを取り囲むように佇む従業員が一斉に頭を下げた。
「私たちは―」
「筒井様でいらっしゃいますよね。―皆様、お待ちでございます」
「…そうですか。お世話になります」
真さんが名乗るまでもなく、和風美人――女将がにっこりと笑った。
そう、女将だ。
ここは旅館だった。
それも高級としか言えない感じの。
どうしてそんなことが分かる?
そんなのは見れば一目瞭然だ。
広い敷地に竹林。
小まめに手入れされていることによって保たれているであろう美しい庭や小さな小川。
そして、広い敷地に反して、ひっそりとけれども優美な建物。
それこそ有名人とかお金持ちがちょっとした隠れ家感覚で来そうな場所だった。
なんと言うか…これは俺が泊まっていい旅館じゃない。
そもそも、どうしてこんな場所に来てる?!
話の内容的に、真さんの実家へ向かうような話だっただろうが!!
学校から下校する前に拉致されるように温泉旅行に出発し、途中真さん家の事情で温泉旅行が中断された。
知りもしない人様ん家に呼ばれても無いのに行きたいとは思わない。
しかし、俺が辞退する間もなく、俺はまた車中の人となった。
車に乗せられてしまえば、アクションスターのように車から飛び出すことも出来ず(てか、それやったらまず死ぬから)結局、時間がかかるからといわれてなるようにしかならないと眠りについた。
なのに、目を覚ました先に見えるのは一軒家や、マンションなどの人の住まいではなく、とても高級そうな旅館だったのだ。
すぐにでもUターンして家に帰りたい。
いや、もうそこまで贅沢(?)は言わない。
ちょっと戻った辺りにあった大衆向けの旅館に泊まらせて欲しい。
切実な思いだった。
俺のそんな想いを理解してくれる者はおらず、見事な庭を見ることができる小道を女将に先導されて歩く俺は、これからのことを思ってどんよりと重いため息を付いた。