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「た、珠姫ちゃんのお母様とお父様でしたかっ!!」


やっと背中から珠姫を剥がすことに成功して、突然の来訪者との挨拶の段になって、高知が素性を知り、あからさまに緊張してビシッと背筋を伸ばした。

その横で、篠川が如才無く、美人スマイルを駆使して挨拶をする。


高知は背筋良すぎ。篠川は笑顔輝きすぎだ!


澪さんに慰められて復活した真さんは、高知の台詞にピクリと表情を動かしたが、口を開くことなく澪さんの横に佇んでいた。


多分、澪さんの手が添えられている腕を離したくなかったのだろうと推測する。




「で、どうしたんです。突然」


口火を切ったのは俺だ。


早く帰って、録り貯めしてたサッカー中継を見たかったので。


この前の週末に見ようと思っていたら、母さんと珠姫に邪魔されたんだよな…。


明日からGWということなら、貯めていた分を全部消化出来るはずだ。

そう思うと、早く帰りたい気持ちが沸きあがってきて、気が急いてくる。


「それはね、明日からGWだから一緒に旅行でもと思って来たのよ~!」

「珠姫を迎えにですか?」

「正解だけど大正解ではないわね」

「は?大正解??」


大正解…その言葉に嫌な響きを感じたのは俺だけだろうか。


何をもって大正解なのか。

全然聞きたくない。



このままバックレてもいい?



俺は退路を探す。

しかし、敵(?)もなかなかの強者だった。


こちらが口を開く前にさっさと言葉を重ねられてしまった。


「珠姫と皇くんを迎えに来たの」


…。


聞きたくなかった。


いや、まだどうにかなるはず!


「へえ?俺、GWは用事が-」

「ちゃんと亜紀ちゃんに了解取ったから!」


…。



……。



な・ん・だ・と!?



こちらが手札を切る前に、もう最強のカードが出た後ってどういうことだよっ!!


オーバーキル過ぎだろうが!!?


戦いの場に出陣の前にもう死亡が決まっていたというのか…。


む、無念…。


「…そうですか」

「うん。じゃあ、行きましょう!車は近くのコンビニの駐車場に置いてあるのよ」

「はあ…え?ええと、出発の準備とか…」

「大丈夫!亜紀ちゃんが用意してくれたから、このまま出発できるわ。足りないものは後で買い足せばいいし」

「…」


お母様、あなたはどこまでも完璧ですね、はい…。


尊敬します。


…したくないけどね!





「さあ、行きましょう!時間がないのよ」

「時間ですか?」

「そう」


背中に回って押す澪さんに門に向かって追い立てられながら会話を交わす。

その後ろを真さんと珠姫がついてくる。


真さんが珠姫の気を引こうと頑張ってはいるが、珠姫は俺の方を見て、真さんを見ようともしない。


俺のためにも真さんにもっと構ってやれ、珠姫。



「こ、皇…」

「宮ノ内先輩…」


背後から聞こえてきた声に、すっかり存在を忘れてしまっていた高知と篠川の存在を思い出す。

身体をひねって顔を向ける。


「すまん。なんか用事が出来たっぽいからまたGW明けにな!」

「ごめんなさいね。またの機会に誘ってやってちょうだいね」


フォローのつもりか、澪さんが口を出してくる。

さすがの高知と篠川も、珠姫の母親を差し置いて遊びに行こうとは言えないものな。


何とかあちらの誘いは回避できたらしい。


…しかし、それが分かってもそんなに嬉しくないのはどうしてだろうな?




半ば惚けた顔をした2人をそのまま放置し、俺たちは正門をくぐるのであった。




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