こぼれ話08
空手部のその後。
と、いってもサラリとしか書いてない(汗
これでこぼれ話は終了です。
前にも書きましたが、次の話にいくまでエンドマークにしておく予定です。
しかし、秋には再開予定です。(すぐそこのような気がしますが…
よければまたお付き合いいただけたらと思います!
部活紹介のオリエンテーションが終わって、2週間が経った。
「どうも空手部が変わってきたらしいぞ」
昼飯を食べ終わって寛いでいるところに落とされた言葉。
情報を持ってきたのは悪友と呼ぶべき1人だった。
そいつはよくこんな風に何処からとも無く情報を仕入れてくるやつだった。
「へえ?」
俺的にはもう終わった件だったのだが、その後の話は少々琴線に触れた。
続きを促す。
情報を持ってきてくれた友の話を要約すると、こういうことだった。
空手部に新しく来た指導者なる人―赤坂さんのことであるが、弛みきった部員たちを全て床に沈めて(!?)一喝し、空手部に新たな風を起こしたとのことだった。
空手部で幅を利かせていた3年の片畑などこてんぱにされたらしい。
いや、とても見たかった。
…まあ、それはさておき、数日のうちに内部の澱というべきモノを一切合切かきだし、綺麗にしちゃったらしい。
師匠に頼んで来てもらっただけの人材であったようで、とても喜ばしい出来事だ。
心の片隅で気にしていた空手部の件が無事解決したと、懸案事項の項目から外したのであるが、これが新たな面倒ごとを運んでくるなどと、この時の俺は思っても見なかった。
「宮ノ内、頼む」
「勘弁してくださいよ…本条先輩」
空手部の話を聞いた数日後、俺のクラスに本条先輩が訪れたのだ。
あ、一緒に菱目川先輩も居る。
本当にどこに行くでも一緒なんだな。
だが、今はそれどころじゃない。
「一度だけでいいんだ。赤坂さんと試合をしてくれ」
本条先輩の真剣な瞳が素敵だ!とか俺は絶対言わない!!
てか、そんな視線を俺に送らないでくれっ!
周りで起こった女たちの悲鳴に近い声が耳に痛い。
これってどんな責め苦だよ?
そう、現在俺は本条先輩から、空手部に指導に来てくれているOBの赤坂さんと試合をするように迫られている。
何度言ったかわからないが、俺が習っているのは空手ではないのだ。
畑違いの願いを言われても困る。
さっきから俺と本条先輩の押し問答がかれこれ数十分。
俺の昼休みに、平穏は無いのか?
そう嘆きたくなる。
「畑違いなことは分かっている。しかし―」
「分かっているのなら、無理やり試合させようとしないでください。それに相手はあの赤坂さんですよ。俺にぼこぼこにやられろと?」
「そんなことにはならないっ!赤坂さんはいい勝負になるだろうと言っていた」
「あの人は…」
絶対楽しんでる。
間違いない。
それも、本条先輩をけしかけてくるなんてどんな仕打ちだよ。
けれども、俺の答えは決まっている。
「本条先輩に頼まれたら断りにくい」
「宮ノ内!」
喜色が本条先輩の顔に上がる。
てか、最近本条先輩の色んな顔を見まくりだな。
本条先輩のファンに睨まれないよな…。
「ですが、お断りさせていただきます」
あげて落とす。
こんなことはしたくなかったが、俺の答えは変わらないんだから仕方が無い。
だから、そんな愕然とした顔はやめて欲しい。
「やるな。宮ノ内」
「菱目川先輩…楽しそうですね」
「いんやぁ?俺だって断られて困ってるぜ」
どこら辺が困っているというのやら。
文章として書き出して、提出してもらいたい。
そう思いつつ、「困っている」と、それなりに好印象をもった先輩方に言われたら、救いの手を伸ばすしかない。
「赤坂さんには直接、断っておきますよ」
断ることに変わりはないが、これなら先輩方にも被害はいかないだろう。
ホッとした顔をする2人――ではなく、とても残念そうな顔をした2人?
何故に?
先輩たちの為を思って言った言葉のはずが、どうやらこれといって助けの言葉にはならなかったらしい。
「本条先輩?菱目川先輩?」
「あー…まあ、そうしてくれると、ありがたい話ではあるんだが、な」
「?」
「俺たちも、宮ノ内と赤坂さんの試合を見たいと思っていた…とても残念だ…」
「…」
…。
しょんぼりと肩を落とす本条先輩から視線を外して、俺は盛大なため息を零すのであった。
「趣味悪いですよ、赤坂さん」
「何がかな?」
放課後になり、生徒会での雑務を終えて俺は武道館に来ていた。
そつなく挨拶をして、空手部の練習風景を眺めながら赤坂さんに対峙する。
赤坂さんは終始穏やかな笑顔だ。
それが何より恐ろしい。
「で、ここまで来たのはやっぱり俺と試合をするため――ではなく、断るためかい?」
「それ以外の何があるというんですか?」
「手厳しいね」
「笑いながら言われても、説得力ありませんよ。…先輩方に頼まれた俺が、仕方なしにここに来ることは予想済みでしょう」
「ははは…。まあ、君が彼らの頼みで俺の願いを聞いてくれるなら、此方としては万々歳だったんだけど。そうは上手くいかないね」
「…」
憮然とした顔を隠すことなく赤坂さんの次の言葉を待つ。
「では改めて。宮ノ内、俺と戦ってくれないか?」
「お断りさせていただきます」
「一言か…」
「格闘マニアに付き合ってる暇は無いんですよ」
「…本当に君は手厳しいね」
取り付く島など作らない。
俺は戦いたいといった理由から古武術を習ったわけではないのだから。
「赤坂さんと俺はスタンスが違いすぎるんですよ。俺は必要に駆られて武術を習い始めた。だから、その為にしかこの手を使わない」
「彼女のため…かい?」
「聞いたんですか?…そうとも言えますね。だけど、それだけでもない」
「それは―」
「言う必要の無いことです」
「…そうか」
ちょっとシリアスな感じになってしまったが、これで終わりだ。
赤坂さんには赤坂さんの思いがあるように、俺には俺の思うことがある。
譲れることと譲れないことはどうしたって出てくる。
そして、今回のことは申し訳ないが、今の俺には、譲らなければならないことには思えなかった。
ただそれだけだ。
「了解だ。では、またの機会を待とうかな」
からりと笑う赤坂さんは、やっぱり俺より長く生きている分か、硬くなりかけた雰囲気をやんわりと普通に戻してくれた。
「…そうですね。機会があれば」
まあ、あれだな。
俺は赤坂さんを気に入ってしまったらしい。
『機会なんてありません』ときっぱりと言うところを、こう返すぐらいには。
それが伝わったのだろう。
赤坂さんが軽く肩を叩いてきた。
「せっかくここまで来たんだし、練習見て行ってくれや」
「嫌ですよ。男どもが暑苦しく汗流すところ見て何が楽しいんですか」
俺と赤坂さんは少しの間、気のおけない友人のようなやりとりを交わしつつ、練習に勤しむ空手部員たちを見守るのであった。
ここまで読んで下さってありがとうございます!
少しでも楽しんで頂けていたら幸いなのですが。
皇紀と珠姫のドタバタラブコメディ(いつそうなった!?)はまだ続きます!
少しでも早く再開できるように頑張りますので、再開していた暁には、読んで頂けたらと思います。