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さて、ここはひとつ、でかい釘を刺しておかなければ。
そう、俺を凝視したまま固まっている片畑に、盛大に釘刺しておかなければ安心できん。
俺にここまでさせたんだ、追い込ませてもらうぜ。
「残念ながら、俺のほうが出来るようですね。申し訳ありませんが、力という単一の強さしか誇れない先輩では彼女を任せられません。一昨日来てください」
「なっ…」
よし、伝えることは伝えた。
伝わったよな?
てか、これで分からなかったら救いようがないというか…なあ?
「菱目川先輩、マイク」
「あ、ああ」
「本条先輩、最後のシメですよ」
マイクを投げれば、危なげなく本条先輩の手におさまる。
「せっかくの出番、取ってしまってすいません」
「構わん」
ここで初めて本条先輩が笑った。
うわ。珍しい。
めったに笑わないことで本条先輩は有名なのだ。
これで俺の運が向けばいいんだが。
それよりも、もしかすると運を使ってしまったのか?
珍しいといっても、男の笑みで運を使い果たしてしまったなんてことになっていたら、枕を涙で濡らすぜ…。
俺の幸運が残ってることを全力で祈ってるぞ!神さんっ!!
「――力の強さと、心の強さを同時に鍛えられる部活だと思う。まあ、たまに勘違いする奴も出ては来るが…。―興味を持った者は、一度武道館に見学に来てくれ。我々はいつでも歓迎する」
本条先輩の芯の通った声がしっかりと耳に落ちてくる。
いい声だな。
なにかをやゆった言葉が入っていたが、俺は知らん。
今こそ!スルースキル発動!
彼の言葉を最後に、空手部の出し物は無事、幕を閉じたのだった。
「すまん」
全ての部活紹介が終わって、全員での片付け。
あっという間に片づけが終わり、手足となって働いた役員たちは帰った。
反省会はまた後日だ。
そして今は、生徒会室に居る。
そんな生徒会室で、俺は高知に頭を下げられていた。
ズビシッ
「たっ!」
下げた頭にチョップをくれてやる。
トップが軽々しく頭を下げるな!
桜ヶ丘高校のトップの自覚があるのか無いのかはっきりしろよ!!
「素直に謝ってんのに、何してくれんだよ!」
分かってない。
いや、分かっててやってるのか?
「謝るよりも何か奢れ」
「…了解」
俺の言葉に黙ったと思ったら、苦笑と共に頷かれた。
調子が狂うからやめて欲しい。
「いや~、でも凄かったね」
「…星埜先輩」
ニコニコ笑って話に参加してきたのは星埜先輩で、その横で苦笑いしている遠山先輩も居る。
「宮ノ内」
「何です?遠山先輩」
「お前、空手習ってたんだな」
「あ~…まあ…そんなところです」
遠山先輩に歯切れ悪く答える。
俺が習ってるのは空手ではなくて古武術。
これといって、人に触れ回るようなものでもなかったので、今まで誰かに古武術を習っているなんて、言ったことは無かった。
これからも触れ回る気はない。
古武術を習い始めたのは必要に駆られたからで、仕方なかったからだ。
そう、珠姫を守るために。
珠姫は小さいころから美少女っぷりを発揮していたから、面倒ごとに遭遇する機会が半端なかったんだ。
もれなく俺も巻き込まれるわけだから、身を守る方法を身につける必要性があったわけだ。
なもので、本当に幼い時からやっている。
うん?小さいときにはそんなものは無理だって?
まあ、入った当初は確かに身体に負担のかかる鍛錬など全然したことはない。
だが、それだけが鍛錬ではないのだ。
精神鍛錬。
そういうものを中心にしていた。
あと体力作り。
これらのおかげで、何かあったときでもまずは頭が動く。
頭が動けば身体も動く。
まあ、そういうことだ。
「?あの後は、何事も無く終わったし、よかった、よかった」
深く突っ込まず、無事にオリエンテーションが終わったことを喜んでくれる遠山先輩は素敵だと思う。
ん?
いや、これはフラグとかいうものでは断じてないぞ!
心配りの出来る遠山先輩を褒めただけだ!
「これでやつらは大人しくなるかな?」
「どうでしょうね…自分たちでまいた種とはいえ、恥をかかされた訳ですし、報復してきそうな気も」
脳内で否定することに必死な俺を置いて、星埜先輩と高知が話している。
「それなんですが、俺に考えがあるんです」
慌てて会話に参戦する。
「ほお?」
「何かいい案ありか?」
「ああ。せっかくだし、性根を叩きなおしてもらおうかと」
「は?」
俺の返事に意味が分からないといった顔をする高知と遠山先輩。
その隣でひとり星埜先輩が笑顔だ。
や、それ怖いんですって。
しかし、俺も星埜先輩に負けず劣らずに意地の悪い笑みを浮かべた。
片畑だけじゃない。
片畑に賛同する他の空手部員もまとめて性根叩きなおしてくれる!!