46
片畑の指示で、空手部員が舞台の中心地に瓦を設置する。
どうやら、やはり瓦を割らないといけないようだ。
しっかりと瓦が3枚…4枚積まれている?!
…何故だ?
視線を片畑にやれば、にやりと笑われる。
…お前の歪んだ笑顔なんて見たくないんだが。
よければ永遠にその笑みは封印してくれてもいい。
「俺は、4枚割れるぜ」
ああ…そういうことですか。
…OK、理解した。
自分の力を誇示したいらしい。
脳まで筋肉で出来ているらしい。
可哀相過ぎる。
「…分かりました。――…おい?」
神妙に頷けば、舞台袖のすぐ近くに居た珠姫が。
そして、やってくれた。
俺のために積まれた4枚の瓦の上に、プラス3枚置く珠姫の姿に、俺は苦笑も出なかった。
いや、口元は多少引きつっていたと思う。
「珠姫さん?」
「ん」
「これを割れと?」
「ん」
答えが分かっていても、人は問わなきゃいけない時がある。
それが今だ。
しかし、無常にも頷き返されてしまえばそれで終わりだ。
「…そうか」
珠姫が満足したように、俺がさっき居るように提示した場所に戻っていく。
ははは…賢いぞ、珠姫…。
そのまま何もせず、そこに居てくれればよかったのに。
盛大なため息をつこうとして――やめた。
いつのまにやら硬直から復活した生徒たちは、固唾を呑んで舞台の上の俺たちを見守っている。
見守っている?
いやいや、そんな易しい視線ではない。
ちらりと時計を見れば、あと少しで空手部の時間が終わる。
他より少し長めに時間をとっておいてよかった。
前日にきた時間延長の願いをうやむやにせず、調整していたおかげだった。
無言で見守る?周囲の視線を無視して瓦の前に立つ。
珠姫が先ほどして見せたのと同じように、足を軽く開き、腰を落とす動作をする。
息を深く、深く、吸って、吐く。
何度かそれを繰り返し、瓦の一番上に手を添える。
一瞬の間。
「せいっ!!」
ドゴッ!!?
…。
……。
………。
大きな歓声。
俺はやり遂げた。
良かった。
最近、道場に行く暇がなかったので、鈍っている。
なので、全て割れるか心配だったんだ。
当初の予定よりハードルを上げられて焦ったが、何とかなって良かった。
珠姫が置いたはいいが、割れなかったでは恥ずかしすぎた。
…よかったぜ。