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固まった体育館をそのままに、珠姫が俺の側に戻ってくる。
褒めてくれといわんばかりに、俺を見てくる。
促されるそのままに頭を撫でてやれば、気持ちよさそうに目を細める珠姫の姿。
ここが何処かも珠姫にとって問題がないらしい。
俺も感覚が麻痺していたんだろう。
こんな衆人環視の真っ只中で珠姫の頭を撫でているんだから。
ここに居ろよと目線で言えば、頷きが返ってくる。
その場を離れて菱目川先輩に近づけば、まだ硬直したまま。
マイクをその手から抜きさって前を向けば、同じように固まった生徒たち。
ところどころに居る教師たちは大半が笑っていた。
うん。これぞ桜ヶ丘高校の先生たちだ。
生徒と同じように固まっているのは、新任だな。
「あ~と…予想外のことに固まっている諸君。―人は見かけによらないってことを知って、君たちはひとつ賢くなった。良かったな。…そういうわけで、筒井珠姫に下手にちょっかいをかけないことを俺はここで助言しておこう」
「宮ノ内~」
横で俺の名前を呼ぶ声が聞こえるが無視だ。
せっかく珠姫が作った機会?だ。
有効に使わなければ損だろう。
珠姫が俺を守ろうとした結果でもな。
「彼女と進展のあるお付き合いをしたいやつは、俺のところに直談判しに来る前に、自分を鍛えることを勧める。しかし、力のみが強さではないとも言っておこう。…―君たちの未来に期待している」
「宮ノ内―っ!?」
菱目川先輩が若干涙目だ。
なんだ?
気のいい先輩でも、男の涙では俺は指ひとつ動かさないぞ?
「じゃあ、俺はそのラインに達しているということだな」
聞きたくなかった声。
自失したままでいればいいものを。
「片畑先輩」
「俺は3枚、瓦を割れる。そうだろう?」
「…そうだな」
片畑が視線をやったその場には本条先輩。
少ししてそれに同意が返り、やつの顔に歪んだ笑みがあがる。
やつは分かっていない。
いっこも分かってない。
事実、片畑が瓦を3枚割ることができても、付き合う資格があるかどうかを。
もう、一度告白して、断られていることを。
ほんの先ほど言ったように、強さにも色々あって、力だけが強さじゃないのだ。
やつについているあの耳は、ただの飾りなのだろうか?
片畑には、こういってはなんだが、力しかない。
そんなやつに預けられるものなど、なにひとつない。
口にせず、やつを見ていたら瓦を示された。
「で、お前はこれが割れるのか?」
…。
瓦わりの話はもう終わったもんだと思ってたんだけどな?




