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「オリエンテーション前半の部、終了です。これからトイレ休憩10分を挟んで後半の部へ入りたいと思います。始まる前に体育館に帰ってきてください」
進行役の放送部のエースの言葉と共に、生徒たちが動き出す。
足早に体育館を出ていく者が見える。
それは学食に走ったのだろう。
飲み物を買いに行ったのか、食い物を買いに行ったのかは分からんが。
「あ、珠姫ちゃん!」
高知の嬉々とした声に視線を動かしてみると、こちらに向かって歩いてくる珠姫と篠川。
「おう」
「こんにちは。宮ノ内先輩」
「どうだ?」
「はい。噂で聞いていましたけど、本当に桜ヶ丘高校のオリエンテーションは凄いですね」
「オリエンテーションなんてまだ序の口なんだがな…」
篠川の言葉に苦笑い。
本当に、この学校でオリエンテーションなんてお祭り道への扉を開けたところだ。
そりゃあ、この日のために、年度変わる前から準備し始める部活も多々あるけどな。
まだまだ触り程度だ。
「はあ~、やっぱり凄いですね」
「そうか?まあ、やってみたい部活がみつかるといいな。…いや、決まってたりするのか?」
「帰宅部で決まってたりします。…でも、オリエンテーションのおかげでグラグラしてます。どの部活も見せ方分かっていて、ずるいですよ」
「ははは。そりゃあ、どの部活も部員獲得に必死だからな」
「後半の部もじっくり見て、考えてみます」
「そうしてくれ。篠川は引く手あまただろう。帰宅部では勿体無いと思う。ああ、生徒会にも欲しい人材だな」
「…宮ノ内先輩も天然ですか?」
「は?」
急に黙り込んだ篠川が眉間に皺を寄せて俺を見ている。
いつも奥を見透かせないような笑みなのに…初めて見たな、こんな顔。
なんか悪いこと言ったか?
褒めたつもりなんだが?
「すまないな、篠川さん」
「―どうしてお前が謝るんだ、高知」
「俺が会長様で、お前が俺の部下の副会長だからだ」
「ワケが分からん」
「わからんでいい。お前はお前だ」
「…なんかイイこと言ってるようで、馬鹿にされてる…諦められてる感じが伝わって来るんだが」
「いやいや、とんでもない」
「…」
なんなんだ、本当に。
「皇ちゃん」
ぐいっと袖を引かれる。
視線を向ければじっと見られる。
珠姫の視線が無言で用を伝えてくる。
「お前も大概に口を動かせ。…ほら」
「ん」
ポケットからあるものを取り出す。
そのまま包みを剥いて口に入れてやる。
「もうひとついるか?」
「ん」
今度は手のひらにのせてやる。
珠姫の手の上にはキャラメルが1つ。
俺の大切な糖分である。
頭を使うんでな。
小まめに糖分は摂取しないと頭の回転が悪くなる。
珠姫はそれを狙って来たわけだ。
ポケットからもうひとつ出して、篠川にも渡す。
やけにキャラメルを凝視する篠川に、もしやキャラメルは嫌いだったかと心配した。
「嫌いか?」
「い、いえ…ありがとうございます」
聞いてみれば、杞憂だったようだ。
キャラメルをポケットに入れる篠川を見ていると隣からジト目でみてくる高知の視線。
「なんだ?お前もいるのか?」
「お前って奴は…いや、いるけど」
ブツブツいいながら手を出してくる高知の手にものせてやる。
素直に欲しいと言えばいいのに。
いちいち物欲しげに睨むなよ。
まったく。言葉を使わないやつらが周りに多くて困ったもんだ。