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「順調だな」
演劇部の劇を観ながらの高知の感想。
演劇部は、毎年恒例の即興劇。
色んな芝居の主役・脇役の名を書いた紙を入れた箱から、適当に1年生に引かせる。
そして、その年ごとに決まった演目を1年生がチョイスした役柄で、演劇部員たちが演じるのだ。
今年の演目は『白雪姫』だ。
まともに上演してれば時間がかかるが、オリエンテーション用に山場辺りだけを上手く盛り込んで構成されている。
今はもう城から追い出されて、小人たちと暮らしているところだ。
クスクスといたるところで笑い声があがっているのが分かる。
しかし…。
7人の小人の中に、白雪姫の継母が入ってるのってどうなんだ?
それに、赤頭巾ちゃんの猟師も小人の中にINしてやがる…。
というか、泉の女神が継母役って…ああ…白雪姫に渡されるりんごが金と銀になってしまっている。
『あなたが食べたいのはどちらのりんごですか?―普通のりんごがいい?――まあ、なんと正直な娘でしょう。どちらもあなたに差し上げます。え?いらない?――食べなさい』
舞台から聞こえてくる台詞に、どっと体育館が沸く。
「今年もなかなかにカオスしてるな…」
汗も流れてないのに、つい、顎の下を拭う動作をしてしまう。
どう終着をつけるのか分からないから、1秒たりとも目が離せない。
演劇部が終われば、オリエンテーションの半分が消化されたことになる。
時間もいい塩梅だ。
確かに、連日頑張っただけあって、オリエンテーションがスムーズに進んでいるのが分かる。
「そうだな…」
「まあ、もうすぐ問題の空手部だったりするけど」
「空手部は、瓦わりのパフォーマンスだったか?」
「だな。…まあ、奴は副部長で、部長は本条先輩だし、問題なく終わるだろう」
「…」
「何か引っかかるのか?」
「んー…」
何事もなく終わる気がしないのはなぜだろうか。
「そうだな」と高知に言葉を返してやりたかったが、返してやれない。
はっきりしない俺の返事に、高知が横から視線をくれるが、漠然とした不安では口に出来ることもなく、唸ってしまう。
「歯切れ悪いな。お前の『悪い予感』類はよく当たるんだから、自重しろよ」
…。
何だそれは!
高知の台詞に物申したいぞ!!
『自重しろ』ってなんだっ!
別に感じたくて嫌な予感を感じているわけじゃないんだ、俺はっ!!
「壇上で無様にこけてしまえ」
ボソッと零す。
この場合、呪いの言葉か?
「おいっ!」
ちゃんと聞こえていたらしい。
…まあ、聞こえるように言ってやったんだが。
「―何が起こってもいいように、心構えはしとけよ」
「…はぁ~。何か起こること前提かよ」
「何も無ければいいんだがな。覚悟してれば、大抵のことは対処できる。そうだろう?」
「…まあな」
俺の言葉に、高知が不敵に笑う。
こいつはそんな顔がよく似合う。
巻き込むだけ巻き込んで、あとはよろしくってやつじゃない。
こいつは有言実行型で、頼りになるのだ。
だからこそ、面倒ごとに巻き込まれてしまってもいまだに友人関係でいられる。
生徒会長様のお手並み拝見といけたらいいな。