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昼休みの時間いっぱい使って話をつめる。
珠姫には引き続き1人で行動しないように伝え、篠川には教室にいる間のフォローを。
忍も同様だが、それ以外にも空手部の情報などを集めてもらうことになった。
「授業が終わって、すぐ帰れば部活をしている奴らとかち合うことは無いはずだ。珠姫、早めに帰れよ」
「ん」
「篠川もすまないが、オリエンテーション終わるまでは珠姫のことを頼む」
「分かりました」
「忍」
「はい」
「何かあれば高知にでいいからすぐ知らせてくれ。それと、篠川にも気になることとかあれば直接伝えてくれると助かる」
「了解です。…筒井さんにではなくて、篠川さんにですね?」
「ああ…珠姫に言っても意味無いからな。篠川に頼む」
「…了解です」
「あら?私じゃ不満なのかしら」
「いや…そんなことは」
「ふふふ」
キラリと光る篠川の目。
やべっこえっ。
「皇、時間」
「おう」
時計を見れば鐘が鳴るまであと数分。
「じゃあ、何かあれば即連絡ってことで…」
「即連絡ってことなら、宮ノ内先輩の携帯番号とか教えてください」
「あ、俺もお願いします!」
「そうだな」
確かに連絡を密に取りたければ、携帯番号は教えておくべきだ。
ついでにアドレスも。
しかし、時間がない。
悠長にしてたら、授業に遅れてしまう。
これでも生徒会長と生徒副会長だ。
授業に遅刻するのは体裁が悪い。
「珠姫」
「はぁい?」
「篠川に俺の番号とアドレス教えといてくれ」
「ん」
「高知」
「了解!忍には俺から送っておく」
「あの…筒井さんの携帯番号もよければ…」
忍が緊張した面持ちで言ってくる。
珠姫の携帯か…。
そりゃあ、好きな奴の携帯番号とか知りたいよなあ…。
だが――
「教えてやっても構わないと、言いたいところではある」
「はい!…え?」
俺の言葉に喜色に溢れた忍だが、俺の台詞を理解したのか疑問符があがる。
「珠姫は携帯を持っていないんだ」
「そ…そうなんですか」
明らかにテンションの下がる忍に、素直だなと感心する。
そして、高知と同じだと心の中で笑ってしまった。
実は、すでに高知からも珠姫の携帯番号を教えろと言われていたのだが、持ってないものは教えようがない。
ありのままに伝えると、高知もがっくりと肩を落としていた。
母さんも珠姫に携帯を持たせようか悩んでいたな…。
珠姫に聞いたらしいが、それほど興味がなかったみたいで、返事はいまひとつだったようだ。
そのため、毎日ではないが、澪さん―珠姫の母親から家に夜電話がくる。
…電話か。
外に出て行くタイプではない珠姫には必要ないと思っていたが、多少なりとも交流関係が広がっていけば、あって困るものではないのかもしれない。
じっと俺を見つめてくる珠姫の視線を感じながら、思う。
母さんに話してみるか。
ここでいつまでも考えていても埒は明かない。
そう思って、思考を閉じる。
「珠姫の携帯に関しては考えてみる」
「え?」
「ああ?」
「はい」
忍、高知、篠川の順で声が上がる。
篠川だけは疑問の声ではなかった。
色々と、珠姫と俺のことを理解しているようだ。
本当にいい友達を手に入れたもんだ…
「おい、皇!」
「宮ノ内先輩っ!」
やっと理解したのか、高知兄弟が爛々と光る目で俺に迫ってくる。
うん。鬱陶しい。
「だが、早くてもまだ先の話だ。周囲に気をつけてくれ」
「おう!」
「了解です!」
力強く頷いた高知兄弟の声を最後に、解散と相成った。