35
ご飯も食べ終わって、お茶でまったりと一服中。
昼休みが終わるまであと20分弱。
十分だ。
「―わざわざ今日ここに集まってもらったのは、珠姫のことで頼みたいことがあるからだ」
「何かあったんですか?」
篠川が聞いてくる。
忍はもう高知から聞いているのだろう。
口を挟まず、傍観姿勢だ。
「篠川は片畑―先輩を知っているか?」
おっと。もうちょっとで呼び捨てにするところだった。
高知のこと言えねぇな。
「片畑先輩ですか?…――ああ」
遠くに視線をやるその姿から、記憶を探っているのだろうことが窺えた。
数秒も経たないうちに篠川が声をあげる。
「あの、珠姫に告白しに来た36番目の男ですか!無駄に筋肉誇張しくさって…コホンッ…失礼しました。3年生の空手部の副部長さんですね」
36番目って…数えてるのか…。
それに、筋肉誇張って…。
ははははは…。
いやだな、君たち。
俺は、何も聞いていないぞ!
「…それで合ってる」
「そういえば、この前、宮ノ内先輩の教室に乗り込んだって聞きました。まさか、珠姫の『皇ちゃんに聞いてください』とかいうあの台詞を真に受けてとか?いや、さすがにそんな馬鹿なことはしないですよね」
「「…」」
俺と高知は無言でそれに答える。
俺らの無言に、篠川の口元が微かに引きつったのを見てしまった。
「…大馬鹿だわ」
その通りである。
「はぁ…なんていうか、とっても迷惑」
「…」
一通り話し終わり、篠川の感想がこれだ。
とっても迷惑。
本当に、その通りだ。
こんな忙しいときにあの筋肉馬鹿が。
コメントは差し控えさせてもらったが、心の中で大いに同意した。
そんな時、視界の隅で忍が身じろぎするのが見えた。
「宮ノ内先輩」
「なんだ?」
「はい。実は同じクラスに空手部のやつがいまして」
「もう部活やっているのか?」
早い奴もいたもんだ。
いや、やりたいことが決まっているってことはいいことだ。
「いえ、推薦で入ってきたやつなんで。入学するより前から練習には参加しているようです」
「ああ!推薦か。確かに推薦ならもう部活始めていておかしくない」
「ええ。兄貴から昨日のうちに話を聞いていたんで、今日、ちょっと話しかけてみました」
「どうだった?」
「…かなり部活中の空気は悪いみたいです。さすがに練習中に言い争いはしないらしいんですけど、練習の前と練習の後は綺麗に部長派と副部長派に分かれてて、1年のそいつにとったら、スゲー居づらいって言ってました」
「どっちのほうが多いか聞いたか?」
「はい。部長派対副部長派で5:2ってところです」
一応、部長派のほうが人数多いわけだ。
「でも、副部長派の奴らはガラが悪いのばっかりだって言ってました」
「…」
ガラ悪いのばかり…そういう奴からの人望しかないってことか?
悪いが納得してしまった。
「練習態度とかは?」
「まあ…概ねはきちんとやってるかと」
「概ね…ね」
思い出すのは学食でばったり出会ってしまった件についてだ。
よくよく考えてみると、たかが練習の合間の休憩時間にパンなど買いには来れるはずもないと思い至る。
普通、運動部の生徒は部活前に食料を手に入れにくるはずだ。
なんであの時気付かなかったんだが。
ちょっと自分に呆れた。