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「宮ノ内先輩」
「何だ?」
「はい。実は、駅の近くにパフェ専門店があるんですけど、そこに珠姫と一緒に行きたいなって、話をしていたんです」
「へえ?」
珠姫が寄り道ねぇ?
珍しいこともあるもんだ。
珠姫は基本、家と学校を往復するだけの日々を送っている。
今まで誰かと何処かに寄って帰るなんて行動をしたことがない。
出掛けるといえば、家に帰ってから母さんに上手いこと誘い出されて買い物に出掛けるくらいだろう。
夕飯の買出しだとか、ショッピングに行ったりとか…な。
珠姫が母さんの都合のいい玩具扱いみたいに見える。
言い方は酷いかもしれないが、本当にそんな風なんだぞ。
だってなぁ…この前、母さんが、
「皇ちゃんは男の子だったから、こんな風に着せ替えとかさせてくれなかったのよね~♪やっぱり女の子はいいわね~」
なんて言ってたんだぜ?
俺も珠姫も母さんの玩具じゃないってーの!
っと、思ったわけだが、珠姫はこれといって嫌だったとか言わなかったし、それどころか、いろいろ試着して選んだという一品を、学校から遅く帰ってきた俺の前でくるりと回って披露してくれた。
…あれは珍しい光景だった。
珠姫が服の端を摘んで、はにかんだあの姿は。
ついつい呆けて、母さんに「何とか言え」って新聞紙を丸めたもので叩かれるまで固まってしまったのは記憶に新しかったりする。
…
……うん。脱線してしまったが、なもので、珠姫が自分から興味を示すって言うのは珍しいってことだ。
本当に、母さんはどうやって珠姫を動かしているんだが?
「いいんじゃないか?」
この前のことを回想しながら、篠川の言葉にうなずいた。
「皇ちゃんも」
「は?…俺もか?」
「ええ、ぜひ。実は食べたいパフェっていうのが、特大パフェで、2人じゃ絶対食べきれないんです」
「そうか…」
パフェねえ…。
まあ、甘いもんは嫌いじゃない。
それに、今は2人で行かせるのもまずい。
そうなると答えは決まってくる。
一緒に行くか、片畑の問題が解決するまでやめさせるか。
だが、そこまで珠姫の行動を制限するのもいかがなものか。
それこそ、珠姫が珍しくも友人とパフェを食べに行きたいと言っているのだ。
それはいい傾向だと思う。
ならば、言えることはひとつだけだ。
「篠川は俺が一緒で構わないのか?」
「いや、それが珠姫を誘い出すための餌――んんっ!はいっぜひ!来てください!!」
ん?
何やら篠川が小さい声で言ったような気がするが、聞こえなかった。
だが、力強く頷かれて、決めた。
「それじゃあ、行かせてもらうか。でも、オリエンテーションが終わるまでは待ってくれるか?オリエンテーションが終わるまでは、生徒会の仕事が立て込んでいて、手が離せないんだ」
「はい。それはもちろん!」
ニコニコと頷いてくれる。
てか、笑顔の大安売りだな。
篠川の笑顔もお高いはずだと思ってたんだが。
男女共に人気だからな。
いくらか女子のほうの人気が高いらしいが。
「珠姫、よかったわね。一緒に行ってくれるって」
「うん。嬉しい」
おお。こっちも笑顔だ。
反対側では高知と忍が首まで赤くして固まってるし…。
珍しい顔ばかりでなんとも。
俺も何か変な顔でもするべきか?