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モグモグモグ…
「今週から学食の甘味メニューに、パフェが増えたんだよ。よければ今度一緒に行かない?俺奢るよ!」
「それよりも近くに美味しいお茶を出す喫茶店が出来たと聞きましたよ!お茶はお好きですか?」
「…」
モグモグモグ…
頑張るなぁ…。
というか、そうか。
忍は高知と同じってことなのか。
兄弟ってもんは好みが似るのか?
お互いを牽制しながら、2人は一生懸命珠姫を誘っている。
しかし悲しいかな、珠姫はそれを歯牙にもかけない。
それも誘いが食べ物系ばっかりだ。
高知兄弟は珠姫を太らせる気か?
確かに、珠姫はもっと食べたほうがいいのだが。
珠姫が食べ物に釣られるってことはないと思うぞ。
じゃあ何なら釣れるのかって言われても答えられないけどな。
俺にはよく分からん。
うちの母親にでも聞けば分かるかもしれんがな。
高知兄弟のお誘いの嵐(?)をボケーッと見ながら、お弁当を食べる。
シェイクされて心配された中身は奇跡的に原型を保っていた。
喜ばしいことだ。
そして、命拾いしたな、高知よ…。
玉子焼きを口にしようと箸で摘んだところで、袖を引っ張られる。
犯人(?)は珠姫だ。
「…」
「…」
「…」
「口で言え」
無言で俺に訴えてくる珠姫にこちらも無言で対応したが、声は上がらない。
時間も惜しくて、こちらから口火を切った。
珠姫が何を求めているかなど分かってはいたが、不精は許さん。
言葉を使え、言葉を!
何のために声や言葉があると思ってるんだ。
「玉子焼き」
「玉子焼きがどうした?」
「玉子焼きが欲しい」
「で?」
「ちょうだい」
よし。よく最後まで言った。
…だが、断る!
食べ盛りの男子高校生の食料を奪おうとするとは鬼の所業だぞ、それはっ!!
と、思いつつも、じーっと玉子焼きをやるまでずっと珠姫は見てくるだろう。
そうするとだ!
絶対、高知の視線(玉子焼きくらい珠姫に捧げろという物言わぬ視線だ…)が俺に突き刺さるわけだ。
どんな試練だ。
…
……
………さらば、俺の玉子焼きよ。
心弱き俺を責めないでくれ。
「ほら」
摘んでいた玉子焼きを弁当箱から持ち上げる。
すると、珠姫の口が開いた。
待て。
慌てて俺は玉子焼きをお弁当箱に戻す。
玉子焼きを半分に箸を使って割る。
そして――。
パクリ
「美味いか?」
「ん」
モグモグモグ
咀嚼の音が聞こえてくる。
「…」
無言で口を開ける珠姫。
残った玉子焼きを口にもう一度放り込んでやる。
モグモグモグ
ああ…さらば。俺の玉子焼き…。
珠姫の血となり肉となり、身体のすみずみにいきわたればいいさっ!!(ヤケ)
「何をしているんだ…皇…」
横合いから高知の声。
なんだ?
微妙に声が揺れているが。
「何って珠姫が玉子焼きをくれというから」
「いやいやいや!」
「?ああ!半分にしたことか?さすがに珠姫の口にそのままのサイズは入らない―」
「をいっ!?」
「うるさい。食事も静かに食べれんのか、お前は」
まったく。
何が言いたいんだ、この男は。
その横を見ると、忍が固まっている。
笑顔で。
…ちょっと怖いぞ。
「本当に素敵です。宮ノ内先輩」
華やかな笑顔つきで褒めてくる篠川。
「ありがとう?」
何を褒められたのかは分からぬが、お礼は言っとくべきだよな?
褒められた時は。