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1-F
ここだ。
前のほうの出入り口から顔を覗かせる。
ザワッ
ん?今変じゃなかったか?
…気のせいだな。
見渡せば、すぐに珠姫は見つかった。
「は?」
そして、その横には篠川の姿が…。
おい、なんで居るんだ?
てか、なんだ。
あのいい笑顔は。
「――…珠姫」
「皇ちゃん!」
意志の力を総動員して珠姫を呼べば、笑顔で珠姫が席を立って寄ってきた。
それに続く形で来る彼女。
変わらずいい笑顔だ。
「こんにちは。宮ノ内先輩」
「やあ…珠姫が今朝…君に何か言わなかったか?」
「ええ。聞きました。」
「…なんと?」
「今日は昼休みに生徒会室に行くと」
「ほう?」
「そして、一緒に来て欲しいと」
「ああ」
「待っていれば、宮ノ内先輩が来てくれるって」
「…」
これはどういう意味で捉えればいいんだ?
珠姫が、俺が迎えに来るからと言ったのか?
それとも、行かずに待っていれば、俺が迎えに来ると言ったのか?
…
……
………
うん、深く考えるのはやめておこう。
時間は無限ではない。
昼食を食べる時間がなくなってしまう。
それに、なにやら人の視線が痛い。
時間が経てば経つほどに痛いのは何故だ?
「そうか。…遅くなってすまない。出れるか?」
「はい、大丈夫です。」
お弁当を前に掲げて頷く姿が視界に入る。
頷き返して、1-Fの教室に視線をやる。
全ての視線がこっちにあった。
…
「すまない。昼食の邪魔をしたな」
何も言わないで去るのも失礼なような気がして一言口にして、踵を返した。
うん。聞こえない。
後ろで何やら声が上がった気がしたが、俺は何も聞いていない。
キ イ テ イ ナ イ ヨ ?
珠姫に文句を言えばいいのか、篠川に苦言を言えばいいのか…。
分からなくて、黙り込んだ。
「珠姫の宮ノ内先輩って人ができてるわね」
「うん」
後ろで聞こえる声にもノーコメントだ。
いや、言えるのなら『珠姫の』ってなんだと突っ込みたい。
そして、何故珠姫は突っ込まないんだ!
…珠姫が突っ込む?
やべ。ありえないな。
まだ後ろの2人は喋っている。
しかし、ここは『忍』の時だ!
そう!耐え忍ぶ時なのだ!!
そう心に言い聞かせて歩けば、あっという間に生徒会室に着いた。
「待たせ――」
「こんにちは!珠姫ちゃん!!」
「お待ちしてました!」
「…」
生徒会室を開ければ勢い込んで口を開いた2人組み。
「宮ノ内先輩ファ~イト~」
「応援どうも…」
すぐ後ろからの篠川の応援に力なく応えた。