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「―…あいつは使いたくなかったんだが…背に腹はかえられないか」


ブツブツと呟いている高知に視線を向けると、とても不本意そうな顔で見られる。


何だ?

何か気に障ることでもしたか?

いや、してない!(反語)


「忍を駆り出そうと思う」

「忍?…ああ、お前の弟か。あれ?弟、ここに来ていたのか?」

「そうだ。言う必要は無いと思っていたからな。クラスは違うが、珠姫ちゃんと同じ1年なんだから、彼女の周囲に気を配るように伝えておく」

「いいのか?じゃあ、珠姫に顔合わせしとかなきゃな」

「いや、顔合わせは必要ない!」

「そんな訳にはいかないだろうが。何かあったときに顔合わせしとかなきゃどうにもならないだろう」

「…忍は珠姫ちゃんのことを知っているから大丈夫だ」

「そっちじゃない。珠姫の方が知らない奴には近づかないし、無関心なんだよ」

「その方が、都合がいいんだが…」

「何を言っているんだ?」

「…」

「おい」

「…」

「高知!」

「分かった!分かったよっ!!明日昼休みに生徒会室で顔合わせさせよう!!!」

「?」


怒ったような顔で喚く高知を、エイリアンを見てしまったような面持ちで見てしまう。

高知が何を考えているのか全然分からなかった。


そこで話し合いは終わったのだった。






パタン。


ドアが閉じる音で、意識を今に戻す。

案の定、部屋に入ってきたのは珠姫だ。


入ってきた珠姫を見て顔をしかめる。


「…毎日言っているが、髪の毛をきちんと乾かして来いって言っているだろ」


風呂上りで、明らかに髪が濡れてます。と、見える珠姫にため息が落ちる。

いつものことだが、珠姫は髪を乾かしてこない。

風邪を引くとか、髪が痛むとかそういう理由より、もっと俺にとって切実な問題があった。



「そんな濡れた髪で横に寝られる俺の身にもなってくれ」



そういうことだ。


これって地味に辛いんだぞ!

何度夢の国から帰ってきたことか!!


「…」


目に見えてシューンと落ち込み、悲しそうな顔をする珠姫から目を逸らす。

じーっと見られていることは分かっていたが、見ない振りをする。


「髪を乾かしてこい」


ドアのほうを示してやる。

しかし、俺の求めに応えず、その場に立ち尽くす珠姫。



数秒だったのか、数分だったのか。


結局のところ今日も白旗を揚げるのは俺で――。





「分かった。乾かしてやるからここに来い」

「!」


嬉々としてベッドに座った俺の脚の間に腰を落ち着ける。

首に掛けられていたバスタオルを手にとって丁寧に水分をとっていく。

こうしておくと乾きが早いのだ。


とれるだけ水分をとって、身体を伸ばしてベッドのサイドからドライアーを取り出した。


ここに常備されるほどに、珠姫の髪の毛を乾かしている事実に、物悲しさを感じる。

そんな俺を他所に、珠姫は気持ちよさそうに身体を預けきってきた。


…冷たい。


「そうだ…珠姫、明日なんだが、昼休みに生徒会室に来てくれるか」

「うん、分かった」

「篠川と一緒に来いよ」

「うん」

「篠川がもし都合が悪くて、1人だったら、そのまま教室にいてくれ。迎えにいくから」

「ん」


温風に髪をさらしながら、優しく梳く。

気持ちよさそうに目を細めている珠姫の姿が、さながら猫のように見えた。




「終わったぞ」

「…」

「不満そうな顔するな。終わったもんは、終わったんだから」

「…」

「…寝るぞ」


ドライアーを片付けてベッドに乗り上げる。

さっさと寝ようとベッドに潜り込むと、スルリとお布団に入ってくる熱。

面倒くさくなって、何も言わずに目を閉じた。

同じシャンプーの匂いがすると思ったのを最後に、俺の意識は沈んでいった。








読んでくださった方、ありがとうございます。

皇紀と珠姫の幼いころの話を急に思いつき、書き始めました。

よければ、そちらのほうも読んでいただけたらと思います。

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