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売店でパンをGETして、珠姫たちのところに帰る。
ん?なんか様子がおかしい?
向かう先には珠姫の横顔。
そう、珠姫の横顔が見えるのだ。
え?おかしくないって?
そんなことは無い。
自意識過剰と言われそうだが、珠姫が俺を見ていないという状況こそが珍しいんだ。
珠姫は側に――見える範囲に俺がいると、他の全てを放って俺を見ている。
珠姫に用があって視線をやると、いつも俺を見ているし、何より母さんからの情報だ。
確実だろう?
別に見られて不味いことがあるわけでもないから放ってある。
いや、不味いことが最近あるか…。
この頃は高知とかに親の敵のように見られがちだ。
近々高知の目から血の涙でも流れるんじゃないか?
…それは流石にごめんこうむりたい。
珠姫の習性?習慣?なあの行動。
どうしたらやめさせられるんだろうか…母さんに相談するか?
――そんな無駄なことしてどうする!
きっと、いや絶対もっと悪い状況に陥る。
確信がある。
ああ…なんか目頭が熱いなぁ。
「皇ちゃん」
俺が立ち止まっている間に珠姫が気づいたらしい。
嬉しそうに惜しげもなく満面の笑顔で俺を迎えてくれる。
「―…ん?どうかしたのか?」
対面に座っている3人の視線に気付く。
珠姫の横に腰を下ろしながら問うてみる。
珠姫ではなく、細川たちの様子がいつもと違う。
「い、いいえ、たいしたことじゃないわ」
「そうです~。ただ、珠姫ちゃんは~副会長のことが~大好きだって話していただけです~」
「そうそう」
「…何の話をしてるんだ」
3人の言葉に呆れながら、紙コップに口をつける。
そんな俺の横では、幸せそうな顔をして、珠姫がこれまた紙コップに入ったイチゴミルクティーを飲んでいた。
モカラテを味わいながらひと時の休息を手に入れる。
やっぱり、学食に移動して正解だったな。
一応、生徒会室にも日々のおつとめの合間の休息の為、紅茶やコーヒー類が用意されていたりする。
他にも生徒会役員が各々持ち込んだ菓子とか。
これは生徒会所属のやつらだけの内緒事だが。
色々頑張っているんだから、これくらいはな。
今日に限っては、俺が持ち込んだ食べ物も生徒会室には無かったし、購買の閉店間際の時間的に割引対象物になったパンを物色したってワケだ。
人気の惣菜パンはさすがに売り切れており、手にしたのはメロンパンだ。
甘いものも嫌いじゃないしな。
「珠姫、食べるか?」
「うん」
「ほら」
頷くだけ頷いて、口を開ける珠姫。
要望に応えて、1口大にちぎったパンを口に放り込んでやる。
ここまでの動作に淀みなどない
よくあることだからだ。
そんな中、対面に座る3人は、変な顔をして俺たちから目線を逸らすのが視界の隅に入った。
「なんか~胸いっぱいです~」
「ご馳走様」
「仲良いわね」
3者3様に頬がほんのり色づいていた。
何なんだ?この反応は?
「ん?」
珠姫も俺の変化に気付いたのか、首を傾げてくる。
しかし、それだけだ。
もっとパンをくれと言わんばかりに口を開けるので、パンを放り込む。
疑問を感じてはいたが、これといって大きな問題ではないだろう。
そう答えをまとめて、俺はパンを咀嚼するのだった。