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「明後日の部活紹介なんだけど―」
「各部活には連絡済みだぞ」
放課後の生徒会室。
桜ヶ丘高校は、部活動が必須というわけではないが、豊富な部活動があることで有名で、ちらほらと全国に名を連ねる運動部や選手などが居た。
そのため、一年生たちが学校に慣れたころを見計らい、5・6講時目を使って部活紹介が毎年、生徒会主催で行われている。
なので、今現在、生徒会室はいつもの穏やかさを打ち破り、とても賑やかだった。
その中でも忙しいのは生徒会長である高知――ではなく、何故か副会長である俺だった。
「会長~、昨日頼んでた資料は?」
「あ~?…ああ!皇に渡したよな?」
「…そのまんまな」
「やってあるんだろ」
「…」
パサ…
無言で机の上に置く。
「サンキュー」
礼を言いながらも、さも当然のように資料を受け取り役員に渡す高知。
高知の無駄にいい顔を無性に殴りたくなる。
殴っても許されるよな?
なあ?
そんな俺の不穏な空気を感じたのか定かではないが、高知はあっさりとその場から移動していった。
チッ
…舌打ちは見逃してくれ。
追いかけてまで殴る気力も無く、目の前に積まれた資料の山に向き合うことにした。
やることはいっぱいあった。
各部活の部活紹介の順番や、そのことによって起こるトラブルの仲裁。
決まっているはずの紹介時間を延ばすように言ってくる輩への対処。
内容チェックもある。
極め付けが此度の部活紹介に対する書類の作成および、体育館使用におけるマイクや椅子などの各使用物関係について教師への根回しなど。
何故そこまでといわんばかりに後から後からやることが出てくるのだ。
これは当然のことだが、会長から指示の下、役員たちがそれぞれに動く体制が出来てる。
そのはずなのにだっ!
全てに近い仕事が俺の下に集まり、俺の下から各役員に仕事が渡っていくのだ。
なんつーか…うん。高知、殴らせろ。
お前を殴れば全てがすっきりする気がするんだ。
そう思うのに、高知はのらりくらりとかわして…――。
結論を言うと、高知に構っている暇があるのなら、とっとと仕事にかかったほうがいいってことだ。
悲しいことに。
カタカタカタ…
パソコンのキーを打つ音が生徒会室に響く。
先程までの喧騒が聞こえなくなる。
過去の資料とパソコンの画面を交互に見ながら、提出書類を作成する。
カタカタカタ…
「―」
カタカタカタ…
「―ぅ、皇っ!」
「!」
肩を揺さぶられてハッと画面から視線を引き剥がした。
後ろを見ると、高知が呆れた顔で立っていた。
どうも集中しすぎてしまっていたらしい。
「おーい、何度も呼んだんだぜ」
「すまん」
一概に悪い癖とは思っていないのだが、ひとつのことに集中してしまうとつい周囲の様子が気にならなくなってしまう。
昔、それで母さんに何度とはなしに頭をはたかれたのはちょっとした幼き日の思い出の1ページだ。
最近はさすがに気を付けていたんだが…。
予想以上の仕事量に、つい癖が出てしまっていたらしい。
「で、なんだ?」
高知を見て呼ばれた理由を尋ねる。
しかし、高知は答えず、生徒会室の入り口のほうへ顎をしゃくった。
尊大な仕草だ。
そう思いつつも視線を入り口に向けるとそこには…――。
「珠姫…」
鞄を胸に抱え立っている、珠姫の姿があった。