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自室のドアを開けるとそこには――…珠姫がいた。





「…風呂は?」


何も言わず、こちらをじっと見つめる珠姫からソッと目線を逸らして口を開く。

珠姫がうちに来て数週間、気づけば自分の部屋に珠姫が居ることに驚かなくなった。

驚かなくなったというか、なんて言うか…まあ…諦めたんだ。

諦観?

そんなもんだ。

驚くだけ損だ。

気力が減っていくんだから。





「明日朝入る」





返答を待ってみれば、お年頃の女子高生には相応しくない台詞が聞こえた。

夏場ではないとはいえ、それはちょっと…。

そう思う俺は間違ってないはずだ。


「今、入ってこい」

「…」


無言で応じる珠姫。


まあ、それも分からないでもない。

先程の洗面所と同じように、閉め出されるとでも思って、部屋から出て行きたくないのだろう。

学習したようだ。

それは正しかった。

あわよくば、1人の時間をもっと堪能したかった…。

ため息をひとつついて考えを散らす。


最近はため息ばかりだ。

ああ…幸せが減っていくってか?

誰か、ため息の出ない生活を俺にくれ。




「風呂入ってこい」

「…」

「鍵はかけずにおいてやる」

「…」

「――髪も乾かしてやるから」

「入ってくる」


表情には出てないが、嬉しそうなのが分かる。

ん?

他のやつに分かるかって?

多分…いや、きっと他のやつには分からないだろうな。

珠姫の両親と俺の両親を除けてであるが。

珠姫の喜びようを言い表すならば、尻尾があればあらん限りに揺れていたことだろうってとこだろうか。

俺は、珠姫が軽やかに部屋を出て行くのを見送った。










毎日のごとく一緒に寝る、寝ないで押し問答をしている。

最終的には、大半の割合で俺の負けで終止符が打たれる。

珠姫が居候となったその日から毎日。

さすがにもう俺の部屋で一緒に寝ることについては諦めていたが、毎日押し問答を繰り返すのは、そのまま受け入れてしまうのはどうかと思う俺の意地のようなものだ。


15歳と17歳の、血のつながってない(つながってたとしてもどうかと思うが)男女が、一緒に寝るというのは普通、親が止めるはずだ。

しかし、俺の両親は普通の常識では測れない人たちだった。


珠姫が我が家に来た初日、俺の部屋に居る珠姫に吃驚し、絶句し(パジャマに着替え、枕を抱えてベッドの上に座っていれば誰でも驚く!)、俺は部屋に背を向けて居間に戻り、母さんに言いにいった。

だが、返ってきたのはありえない台詞だった。







「何が悪いの?」






驚愕である。



いろいろと言いたいことがあったが、そのありえない一言に、言い募ろうとした言葉を全部封じられた(…様な気がした)。

その日はいろいろとあった(入学式でのあれやこれ)ので、通常以上に疲れており反論する気力がもう無く、そのまますごすごと部屋に帰ってしまったのだった。


初日が肝心だったはずにもかかわらず、母さんの先制パンチにやられたのである。


…見事な右フックだったぜ。




そして、珠姫は毎日俺のベッドに潜り込むようになったのである。

これをなし崩しというのではないだろうか…。


それでも、同じベッドは自分も男だからということで、頑なに俺は珠姫を拒み(男が使う言葉ではないと思われる。てか、ぜったい違う!)、お布団一式をいつも置くようになった。








「…でも朝起きたら…俺の横で寝てるんだよな」


乾いた笑いしか出てこない。

俺は、どこか遠くを見つめながら、昔の平和の日々を思い出すのであった。







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