20
短い休息(一人の時間)を手に入れた。
身体を洗い、湯船につかる。
湯気を見ながらまったりとする。
「今度…温泉の素でも買ってくるかな…」
口にして、それっていいなと思う。
そう思う反面、やばいなと思う。
このままお風呂の魅力に取り付かれたら、温泉マニアとかに近い将来なりそうな気がする。
さすがにこの年で渋すぎる趣味だと思う。
迫りくる危機が頭の中をちらついたが、今だけはと無視する。
…それだけ俺は疲れているらしい。
何とか気分を回復させることに成功し、髪をバスタオルで拭きながら居間に入る。
「皇紀!嘘はついちゃいけないのよ」
居間の出入り口を塞ぐように、仁王立ちになった母さんが待っていた。
「…」
浮上した気分がまた落ちそうになるのを感じながら、居間の入り口の壁に手をつく。
「…じゃあ何?…一緒に風呂に入れとでも?」
苦々しく口を開く。
まさか肯定なんかしませんよね?母上様?
「そうよ」
やられた。
きっぱりはっきりと母上様が肯定しやがった。
問題ありだ。
なぜ、この人はこうはっきりと断言できる?
今後のことを思うと、空恐ろしい物を感じる。
なんで子は親を選べないんだろう…いや、それは失礼か、親も子を選べないし。
そう考えるとうちの両親は全然悪い親ではない。
それどころか、いい親だ。
…あれ?なんか話がずれてるか?
「…」
あれこれ思考が空回りしている間も、母さんは色々と力説している。
それ以上返す言葉もなく、俺はそっと進路を変える。
廊下を進んで、台所に直接つながるドアから入る。
母さんはそれに気付かない。
「男に二言は無しよっ!」
母さんは一人、燃えていた。
「15歳の、他人様から預かっている娘と、17歳の息子が仲良く一緒に風呂に入ることのへの矛盾に気づけ。てか、道徳観を持て!」
母さんに聞こえないような小さな声でぶつぶつと言いながら、俺は冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出して一気に飲み干した。
自棄酒の代わりではない。
一応主張しておくが。
「『据え膳食わぬは男の恥』とも言うぞ」
俺の小さな声を拾ったのか、父さんがちらりとこちらを見て笑った。
「…――お預かりしている他所様の大切なお嬢さんに、息子が手を出して父さんはどうなんだよ…」
ますます脱力するものを感じながら、軽く父親をにらむ。
「それはそれ、これはこれだよ。皇紀」
やっぱり笑ったままのたまう父親。
やべっ。イラッときた。
そして、言いたいことを言って、父さんは見ていたテレビに視線を戻す。
…タンスのかどに小指ぶつけて悶えてしまえっ!!
「…」
口からは、もう何も言い出す気になれず、無言で台所を後にする。
まだまだ続く熱い母さんの言葉を後ろに聞きながら。