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短い休息(一人の時間)を手に入れた。

身体を洗い、湯船につかる。

湯気を見ながらまったりとする。


「今度…温泉の素でも買ってくるかな…」


口にして、それっていいなと思う。


そう思う反面、やばいなと思う。


このままお風呂の魅力に取り付かれたら、温泉マニアとかに近い将来なりそうな気がする。

さすがにこの年で渋すぎる趣味だと思う。

迫りくる危機が頭の中をちらついたが、今だけはと無視する。



…それだけ俺は疲れているらしい。











何とか気分を回復させることに成功し、髪をバスタオルで拭きながら居間に入る。





「皇紀!嘘はついちゃいけないのよ」






居間の出入り口を塞ぐように、仁王立ちになった母さんが待っていた。


「…」


浮上した気分がまた落ちそうになるのを感じながら、居間の入り口の壁に手をつく。


「…じゃあ何?…一緒に風呂に入れとでも?」


苦々しく口を開く。

まさか肯定なんかしませんよね?母上様?


「そうよ」


やられた。

きっぱりはっきりと母上様が肯定しやがった。


問題ありだ。


なぜ、この人はこうはっきりと断言できる?

今後のことを思うと、空恐ろしい物を感じる。

なんで子は親を選べないんだろう…いや、それは失礼か、親も子を選べないし。

そう考えるとうちの両親は全然悪い親ではない。

それどころか、いい親だ。

…あれ?なんか話がずれてるか?


「…」


あれこれ思考が空回りしている間も、母さんは色々と力説している。

それ以上返す言葉もなく、俺はそっと進路を変える。

廊下を進んで、台所に直接つながるドアから入る。

母さんはそれに気付かない。


「男に二言は無しよっ!」


母さんは一人、燃えていた。









「15歳の、他人様から預かっている娘と、17歳の息子が仲良く一緒に風呂に入ることのへの矛盾に気づけ。てか、道徳観を持て!」


母さんに聞こえないような小さな声でぶつぶつと言いながら、俺は冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出して一気に飲み干した。

自棄酒の代わりではない。

一応主張しておくが。





「『据え膳食わぬは男の恥』とも言うぞ」





俺の小さな声を拾ったのか、父さんがちらりとこちらを見て笑った。


「…――お預かりしている他所様の大切なお嬢さんに、息子が手を出して父さんはどうなんだよ…」


ますます脱力するものを感じながら、軽く父親をにらむ。


「それはそれ、これはこれだよ。皇紀」


やっぱり笑ったままのたまう父親。

やべっ。イラッときた。


そして、言いたいことを言って、父さんは見ていたテレビに視線を戻す。


…タンスのかどに小指ぶつけて悶えてしまえっ!!


「…」


口からは、もう何も言い出す気になれず、無言で台所を後にする。

まだまだ続く熱い母さんの言葉を後ろに聞きながら。







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