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「くそ…」


なんとも釈然としない。

イライラとしながら服を脱ぐ。

身体の疲れに感じる。

心の平安を取り戻そうと風呂に入ることにした。

日本人ですから。

年寄りくさいとか突っ込みはいらないから。



「この頃の俺ってついてなくないか?」



洗面所でシャツを脱ぎながら一人ごちる。

心なしか独り言が増えたような気がする。

ブツブツ独り言を喋るのはちょっと痛い気がする。

いや、かなりか?


脱いだシャツを洗濯機に八つ当たり気味に投げ入れ、ズボンを脱ごうとベルトに手をかけたその時、何の応えもなく洗面所のドアが開いた。


「…」


珠姫である。

固まってしまった俺に驚きもせず、開いたドアの前で突っ立っている。

なんなんだ。


「…」

「…」


いつまでも続きそうな沈黙に終止符を打ったのは俺だ。

てか、そうしないと話が進まないんだ。

それに、いつまでも上半身裸じゃ風邪引くしな。


「何か用か」

「…」

「歯でも洗いに来たのか」

「…」

「…一緒に風呂に入るか?」


冗談だった。


はっきり言っておこう。


本当にただの冗談だった。


反応を返さない珠姫に、ちょっとした意地悪のつもりだった。

しかし、俺は珠姫を侮っていたらしい。



「入る」



間髪いれず珠姫が頷いたのだ。

心なしか嬉しそうだ。

それに焦ったのは、冗談を言った俺だった。


「まてまてまて~!!?」


焦って手を体の前でぶんぶんと振る。

今にも目の前で服を脱ぎそうな珠姫を押しとどめる。


行動が早すぎるぞっ!!珠姫!!?

そして恥じらいというものを持ってくれ!

切実に思う。


「冗談だ!冗談!!」


そんな俺にやや不満そうな顔をして珠姫はじっと見つめてくる。

やや?

いや、大いに不満そうにだ。


「ほ、ほら。用がないなら居間にでも行ってろ」

「…用ある」

「…なんだ」

「一緒にお風呂入りたい」

「…」


脱力。

その言葉の通り、体から力という力が向け落ちていくようなそんな錯覚を感じていた。


「…」

「…分かった。でも着替えはどうした」


目を逸らし、力なく言葉を口から搾り出しながら珠姫に問うた。


「取ってくる」


嬉々として洗面所から出て行く珠姫を見送って、どっぷりとため息をひとつ。

そして音を立てずにドアを閉めてきっちりと内鍵をかけた。


「…これからは忘れずに鍵をかけないとな」


男である自分が、なぜ女のような行動をしなければならないのか。

そう思いながらも、俺は胸にそのことを強く刻むのだった。










「閉め出された」


数分後、洗面所に続くドアの前で珠姫がぽつんと立っていたとか。







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