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「珠姫」

「なぁに?」


片畑が俺のクラスにやってきたその日の夕食時。


食卓の上には今日のメイン、豚カツがドンと置かれており、大根サラダ、お味噌汁等、温かいご飯が並んでいた。

母さんの横、俺の正面の席に座った珠姫は食べる手を止めこちらを見る。

珠姫の頬っぺたにご飯粒が。


「…ご飯粒がついてるぞ」


話そうとしていた内容を横にどけて、ひとまずご飯粒について申告してやる。


「え?」


緩慢な動作で珠姫が口元に手を持っていくのを見ながらふっと力を抜いてそのまま手を伸ばす。


「そこじゃない。ここだ」


頬っぺたからご飯粒をとってやりながら珠姫を見る。

珠姫はなすがままだ。


「ほら」


とったご飯粒を見せる。

すると、珠姫は何気ない動作でご飯粒のついた俺の指を銜えた。


「!っこら」


目を見張り、慌てて珠姫の口から指を救出する。

…ご飯粒はない。

すでに珠姫の口の中だ。





『ほら、ご飯粒がついてる』

『本当だ』

『こらっ!指まで食べちゃ駄目でしょ!』

『へへっ』





…自分がこんなベタな出来事を体験することになろうとは思わなかった。


それも立場的にどうなんだ?

普通逆じゃないのか?

ギギギッと銜えられた指を凝視した視線を珠姫に戻す。


「皇ちゃん、ありがとう」

「…」


先に礼を言われてしまい、怒ることも非難することも出来なくなり、文句を言おうとして開けた口を閉じた。


「ラブラブね~」


のんきな声が珠姫の横から聞こえてくる。

やべっ…イラッときた。


「母さん…」


ギロッと睨むが、母さんは悪びれた様子も見せずご飯を食べ続ける。

いや、それどころかニコニコと満面の笑みだ。


「亜紀恵さん、おかわり」


スッとお茶碗が母さんの前に差し出される。


「はぁい。皇輔さん、軽く一杯でいいかしら?」

「ああ」


俺たちの状態など知ったことかといわんばかりに茶碗を差し出した手の持ち主。

父親の宮ノ内 皇輔が俺の隣で、ニュースを見ながらご飯を食べていた。


この2人、いまだに子どもの前でも気にせず名前で呼び合うラブラブ(死語)夫婦だ。

物申してやりたい気もしたが、やり返されるのが落ちだ。

家に帰ってきてまで精神的に疲れるのは嫌だ。

ここはスルーしておく。

そして、珠姫と『お話』をするほうが先決だ。


「…珠姫、お前また相手を振るときに俺の名前出したな」

「あら。珠姫ちゃんモテモテね」

「珠姫ちゃんは可愛いから仕方がないな」


すかさず母さんが割り込みをかけ、父さんもこれといったニュースもなかったのか、会話に参加してきた。



「皇ちゃんに聞いてじゃいけないの?」



首をかしげながら珠姫が聞いてくる。

可愛いな、おい。

…って、それどころじゃないだろ!俺っ!!


「その場で断れば済むだろうが」

「まぁっ!なんて事を言うの、皇紀はっ」


珠姫ではなく母さんが反論してくる。

つい食事の場でこの話題を出したのは失敗だった。


「もし、その場ではっきり断って珠姫ちゃんに何かあったらどうするの!あんたは男の子なんだから別にかまわないでしょ」



……


………


理不尽である。


もう一度言おう。


理不尽である。




俺はこう主張したい。

その気が無いのなら無視してしまえと。




俺はこう言いたい。

話を聞いてやるにしても、人が居るような場所で話を聞けば最悪の事態は無いはずだと。




俺はこう思う。

母さん、俺は本当にあんたの息子なんですかと。




くそ、1日に2度も泣きたくなるなんておかしくないか?

さすがに、ここで本当に涙でも流そうものなら指を俺につきつけて笑いそうなのが約1名いそうなので、しないけどな!


「…」

「皇紀」

「…なんだよ」


横に座る父さんがポンと俺の肩を叩いてくる。

視線をやると父さんは無言で頭を振った。

その意味するところは…。


「逆らっても無駄だよ」


妻に逆らわないのが宮ノ内家円満の秘訣のようだ。







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