16
明らかに最近の俺は災難続きなんだろうと思う。
これでも生まれてこのかた17年、真面目に生きてきた自信があるのだが、こうも立て続けに災難に巻き込まれると、その自信も揺らぎそうだった。
事の起こりは2年に進級し、面倒くさい生徒会副会長なんぞに指名されてしまったせいでかりだされた入学式だった。
何年もの長い間離れていた幼馴染にその入学式で再会した。
久しぶりに会った幼馴染は、とても綺麗になっていた。
うちの生徒会長様に一目惚れさせるほどに…。
そして、その幼馴染は…俺にベッタリだった…―。
「宮ノ内~、ご指名だぞ」
「あぁ?」
現在、昼休み時間。
母のお手製お弁当を食べ終え、少々気の置けない友人達と話している最中だった。
ちなみに今日のメニューは三色コロッケ。
うちの母親はそういうものに手を抜かないから毎食美味しく頂いてる。
「宮ノ内」
「はぃ?…何か用でしょうか、先輩」
見覚えのない顔だが、ブレザーについている校章を見ると3年だと分かる。
桜ヶ丘高校は学年ごとに校章の色が違う。
現在は1年が緑、2年が青、3年が赤といった風だ。
まぁ、まだまだ入学間もない1年生などはひょろりとしているから校章を見るまでも無いが。
ムキムキマッチョってものではないが、なかなかの筋肉がついた男だ。
俺が席を立つ前に、俺を呼んだ3年は教室に入ってきた。
席を立つくらいの時間も待てないってどんなんだ?
「筒井珠姫のことだ。これで分かると思うんだが」
なんとも不穏なオーラをしょって俺を見下ろしてくる。
見下ろされているのは、椅子に座っているからだ。
身長は俺とそうかわらないはず。
3年の口からでた珠姫の名に、内心でどっぷりと溜息をつく。
「『俺に聞け』ですか…」
「そうだ」
入学式から一週間。
日々絶えずして何かしら起きている。
…ほぼ9割がた珠姫がらみで。
あとの1割は――珠姫がらみでの生徒会長様による。
あ~…なんか一気に疲れが出てきた。
「…」
珠姫は類を見ないほどの美少女だ。
だからこそ、入学式以来ある誘いが絶えず…間を置かずくる。
そう…告白してくる輩だ。
もう社会現象と言ってもいいくらいだ。
俺的に。
「宮ノ内。筒井はお前に聞いてくれと言った…どういうことだ」
どういう事だと言われても…訳すと『断る』の一言だろうに。
いや、訳すまでも無いだろ…。
「どういうことと言われましてもね…」
「お前の了承を取れば付き合うということか?」
「…」
…なかなか自分に都合のよい風に解釈する輩だ。
あきれを通り越して頭が痛くなってくるような気がして無意識か手が頭にのびる。
友人たちもあきれた顔をしてそっぽを向いている。
出来れば自分の代わりに真実を教えてやって欲しいと切実に思う。
しかしその望みは叶わない。
友人たちはそ知らぬ顔で俺の視線から逃れる。
…まったくいい友人たちだ。
「…おいっ」
痺れを切らしたのか、突然の闖入者たる3年生は俺の肩に掴んだ。
咄嗟に振り払おうとして寸でのところでこらえる。
上級生とのトラブルは後々問題を残す。
…面倒だった。
その一言に尽きた。
「…先輩」
できるだけ穏便に…。
激昂させることなく退場を…――。
「あんた馬鹿ですかね」
俺のささやかな望みは叶わないようだ。