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幕間01






「亜紀ちゃん、本当にごめんね~」


夕食が終わって、就寝するまでの間の時間。

夫と共にテレビを見ていた宮ノ内家の最強と名高い宮ノ内 亜紀恵は一本の電話を受けていた。

亜紀恵の顔は始終笑顔だ。

それもそのはず、電話の相手は十何年来の親友で、珠姫の母の筒井 澪だったからであった。


「いいのよ~。澪ちゃん気にしないで。全然迷惑じゃないから」

「そう?」

「ええ。それよりも、澪ちゃんたちのほうは大丈夫なの?」

「大丈夫と言えば大丈夫なのだけど、当分こちらのほうに居ないといけなさそうなの」

「あらあら。大変ねぇ」

「本当!わたしもマコも仕事終わらせて『さあ、引越しだ!』と思ったのに、馬鹿な新人が―」


聞いてといわんばかりに澪の言葉は止まらず、亜紀恵は相槌を打ちながら聞いていた。



「お気の毒さま。珠姫ちゃんのことは任せておいてね!」

「ありがとう、亜紀ちゃん!!」

「うん。と、言っても、全部皇紀がお世話してるけどね♪」

「それは想像通りというか…でも、皇くんに悪いわね」

「いいのよ~。皇紀が自分でしてることだもの」

「とか言って、どうせ珠姫がいちいち皇くんの側で何かするんでしょ?」

「ふふ。さすがね、澪ちゃん」

「分かりきったことじゃない。珠姫は意識が生まれてから私たちより、何より皇くんが大好きなんだもの」

「それにしては今まで音信不通だったじゃない」

「それこそ色々あったのよ~。連絡入れる間もありゃしないわ」

「それも凄いわねぇ」

「ま、終わったことよ。珠姫は皇くんがいれば大丈夫でしょうし…。というか、皇くんのほうが心配よ」

「そうねぇ…皇紀もお年頃だから」

「まあ、何かあってもこちらは全然OKなんだけど」

「あはは。本当に皇紀ってば好かれてるわねぇ」

「ううん。愛しちゃってるのよ」

「ふふふ…そうね」

「出来るだけ早くそっちに帰れるように頑張るけど、それまでお願いね」

「ええ。任せておいて。皇紀は問題起こさなかったからちょっと物足りなかったから楽しみよ」

「そう言ってくれると助かる」

「珠姫ちゃんは大丈夫。皇紀とわたしと皇輔さんで守るから」

「うん…。あ」

「ん?」

「今、珠姫は?」

「…それ聞くの?」

「そう言われると余計聞きたくなったわ」


亜紀恵は視線を2階と時計に走らせる。

お風呂は終わっている。

それならば――。


「じゃあ、教えてあげる。多分この時間だと皇紀は予習をしている頃だから、構ってもらおうと皇紀の側をウロチョロしているでしょうね」

「あは。ウロチョロかぁ…」

「あわよくば、皇紀の膝をゲットして、まどろんでいるでしょうね」

「ぶっ」

「可能性的には五分かしら」

「あら?五分なの?」

「ええ。今のところは」

「…『今のところ』は、なのね」

「時間が経つたびに、珠姫ちゃん優勢よ」

「…皇くん」

「ふふふ。やっぱり、皇紀も珠姫ちゃんには弱いってことよ」

「もしかして、珠姫的には今のこの状況って望むべくも無い状況かしら」

「そうかもね」

「ちょっとお母さんは複雑よ、珠姫…。マコが聞いたら泣くわ」

「ああ…真くんは泣くでしょうね」


クスクスと笑いが漏れる。

皇輔の視線がテレビから逸れて亜紀恵のほうにやってくるのにウインク1つ。

それにやれやれといったように肩をすくめる。

そんな夫の行動にますます笑みを深くする亜紀恵。


「言わないであげたらって思うけど、どうせ澪は言っちゃうんでしょ?」

「ええ。マコの泣き顔好きだもの」

「悪い子ねぇ」

「お互い様よ」

「あら、言うわね」

「言います」

「まっ」

「…」

「…」

「「ぷっ」」


笑いが回線を挟んで弾ける。

笑いあう声とテレビから流れてくる音だけが部屋の中を満たす。


「あはは。よく笑ったわ。そろそろ切るわね」

「ええ。何かあれば連絡して。こっちも何か楽しい進展があれば連絡してあげる」

「それはぜひ。些細なことでも連絡頂戴」

「メールするわ」

「楽しみにしてる」

「じゃあね」

「おやすみなさい」

「おやすみなさい」


回線が切れた音が聞こえる前に、受話器を戻す。

電話が来るまで座っていた夫の横に戻る。


「やあ、奥さん。とても楽しそうだったね」

「ええ、旦那さま。とても楽しかったわ」


茶目っ気たっぷりに話しながらお互いの視線はテレビの画面。


「澪さんと真は相変わらずなようだね」

「ええ」

「当分帰って来れないようだね」

「半年はこっちに帰ってこれなそうだわ」

「大変だね」

「そうね」


穏やかな時間。

こんな時間は昔からずっと続いてるもので、それを壊すものはいない。


しかし、最近は――。


「珠姫っ」


2階から微かに聞こえた皇紀の声。

それは多少怒った声で、困った声だった。


「やれやれ…今日は随分皇紀が抵抗しているようだな」

「そのようね。…皇紀ってば抵抗するなんていけない子ねぇ」

「亜紀恵さん」


ソファから立ち上がって、今にも皇紀の部屋に突入しそうな妻を皇輔は止める。


「皇輔さん」

「皇紀と珠姫ちゃん2人のことなのだから介入は無しだよ」

「だって」


ぷうっと頬を膨らます亜紀恵の頬を優しくつついて皇輔は優しい笑みを見せる。


「抵抗したって、最後には皇紀が負けるんだからいいじゃないか」

「…」

「亜紀恵さん?」

「は~い」


少々不満そうな顔だが、突入は諦めたのか、皇輔の横に大人しく納まる。

さて、皇紀の意見的には母である亜紀恵が最強であるが、真に最強なのは誰なのか…―。

一言言うならば、宮ノ内家は夫婦円満だということだ。






こうして宮ノ内家の夜は更けていくのだった。







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