12
「はあぁぁぁぁ」
特大の溜息。
発生源は俺自身。
片方の手は自分以外のぬくもりと共に。
もう片方の手で、俺は頭をガシガシとかいていた。
「なんだってんだ…」
自分の手だけ、拒まない少女。
そして、それをなんだかんだ言いながら受容している自分。
分からないことだらけで、溜息しか出てこない。
寝ている少女を見る。
見覚えはない。
…多分。
言い切れるほどの自信がないことにがっくりだ。
保健室に遠い喧騒が微かに聞こえる。
保健室だけ切り取られた空間のように静寂が支配していた。
ガララ…
「…ッ」
どれくらい寝ている彼女を見ていたのだろうか。
保健室のドアを開ける音にハッと現実に引き戻される。
「宮ノ内いるか?」
「は、はい」
遠山先輩の声。
白いカーテンに隔離された空間から返事を返す。
室内を歩いてくる音が響く。
少ししてカーテンが揺れ、遠山が顔を出す。
「こっちは無事終ったぞ。またこれからの予定についてはまた明日話し合うってことになった」
「あ、はい。ありがとうございました。お疲れ様です」
「…」
「遠山先輩?」
一通りの段取りなどの話は終ったのだが、遠山先輩は動かず、ある一点を凝視している。
遠山先輩の視線を辿ると、そこにはオレと彼女の手が…。
「!こ、これは…」
ずっと握っていたのを忘れていた。
不覚!
慌てて外そうとするが、遠山先輩に無言で止められる。
以心伝心じゃない。
ただ、遠山先輩が頭を振ったからだ。
「その子が起きてしまうだろうが」
「…」
居心地悪が悪くて体を揺すった。
外そうとした手をそのままに、遠山先輩を複雑な目で見つめた。
「高知が荒れてるぞ」
ニヤリと少々意地の悪い笑顔と共に爆弾を落とされる。
遠山先輩にしては珍しく意地悪な言葉だ。
たかが知れてはいるが。
「…だと思いました」
そうだろうなとは思っていた反応を高知が案の定していると聞かされて、余計に疲れを感じる。
「大丈夫だ。星埜もついてる」
そうだろうか?
余計に煽っているような気がして気持ちは晴れない。
ガララ…
遠山先輩と話しているうちに、保健の先生が帰ってきた。
「あら、遠山君来ていたの?―宮ノ内君、井川先生に伝えといたわよ。今日はもう生徒会の方はいいからそのまま帰るようにって」
「ありがとうございます。お手数おかけしました」
「いいのよ。それよりもその子の親御さんに連絡を入れたから、もうちょっとしたら迎えが来ると思うわ」
「そうですか」
寝ている彼女を起こさないように、出来るだけ小さな声で話をした。
「宮ノ内。俺は生徒会の方に戻る」
「あ、はい。わざわざありがとうございました」
片手を振って保健室を後にする遠山先輩に軽く頭を下げ、視線をベッドのほうへ戻す。
俺は眠っている少女の顔をなんとはなしに見る。
見れば見るほどに緻密な造作に、ついつい魅入ってしまっていた。