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「ボス、呼んだかい」
「……」
にこやかな笑みと共に星埜先輩があ・ら・わ・れ・た・!
そしておかしい呼びかたをされた。
どいつが星埜先輩に吹き込みやがった。
決して突っ込みなどせんぞ!
「星埜先輩、これ見てもらえますか」
「はいはい――これはまた……」
「ゲームの難易度を調整しようと思います」
「その方がいいだろうね」
「あと、葵巳本たちを連れて各ポイントを回ってもらってもいいでしょうか?」
渡した書類に落とされていた視線が持ち上がる。
俺の意図を推し測るような視線に、視線を逸らさず迎えうつ。
「ツインズ連れてくの?」
「はい」
「……何させればいいのかな?」
「いつも通りで構いませんよ。星埜先輩は各チェックポイントでみんなを労ってあげてください。そうしたら――」
「そうだね。そうしたらきっと萌と咲久はいつもの通りに毒を吐くと思うけど?」
「はい、構いません」
「――随分荒療治だなあ」
「もうここらで夢物語は断ち切っていいかと」
「……分かったよ。2人を連れて行ってくるよ」
ニコリと笑って星埜先輩は書類を俺に返却してくる。
受け取れば、それ以上の言葉はいらなかったのだろう。
踵を返して歩いていく星埜先輩のキレイに伸びた背中。
「宮ノ内、大丈夫なのか?」
口元を引きつらせた先ほどの先輩が俺に問いかけてきた。
「何時までも夢なんて見てられないでしょう。ちょうどよかったんですよ」
「そうかあ〜?」
葵巳本 萌
葵巳本 咲久
俺と同級の美男美女なツインズ。
星埜先輩の幼馴染かつ信望者。
――星埜先輩を追って高校を受験してきたのだとか昔に聞いたことがある。
高校生にしてモデル業をこなす、うちの数ある広告塔の一柱である。
――――そして、顔からは想像できないくらいに毒吐きな一面で2、3年の間では有名。
周囲を凍らせるのが得意な奴らで、特に星埜先輩が関わると核弾頭みたいな威力を発揮する恐ろしき2人組だ。
まだこのレクの意図を汲めてない1年に、ちょっとキツイ激励かもしれないが、俺なりの応援だと思って欲しい……なんて、都合よすぎだろうか。
この後、各チェックポイントをまわる美しき死神たち(ツインズ)に追われて蒼ざめ、半泣きになりつつも必死にゲームに励む1年生を色んな場所で見ることが出来るわけだが、俺の預かり知ることではない。
……そういうことにしといてくれ。