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こぼれ話12



宿泊訓練3日目。


珠姫たち1年生は人の手の入った草花の生い茂る散歩道のひとつを足早に進んでいた。


「今どこに向かっているの?」


先頭を行く忍に綾香は聞く。


「チェックポイント1ですね。この道を使えば、先ほど通過したチェックポイント5からすぐらしいですよ」

「へえ。よく覚えているわね」

「それほどでも……と言いたいところですが、僕じゃないです。こいつーー篭山かごやまが道案内役ですよ」

「お、おい、高知!」


忍の横を行く篭山は、自分の名前が飛び出して慌てたように口を挟む。

しかし、忍はそれを無視する。


「篭山くんは高知くんの友人だったわよね。遅くなったけど、篠川よ。今日はよろしくね」

「!?よ、よろしくっお願いしま、すっっ!!篠川さん!」

「固いわね……同い年だからもっと気安くても」

「いいいいいええっ!!だ、だだだ大丈夫です!!!」

「そ、そお?」

「うすっ!」


なんとか無事(?)挨拶を済ませた綾香と篭山は口を閉じる。

しかし、すぐに綾香が口を開いた。


「そこの2人も名前聞いてないわ?名前教えてくれる?」

「「!」」

「私は篠川綾香で、こっちが筒井珠姫」

「は、はい!私は篭山未知瑠かごやまみちるって言います。そこの篭山満かごやまみつるの双子の兄妹です!よろしくお願いします!!」

「わたしは堂本沙夜香どうもとさやかです。食べることが大好きです。よろしくお願いしまーす」

「……(結構個性的だわ)そう、兄妹だったのね。どちらも篭山じゃ混乱するから、未知瑠って呼んでいいかしら?」

「っよ、喜んでーー!!」

「……わたしも沙夜香でお願いしまーす」

「分かったわ。じゃあ、未知瑠、沙夜香、一緒に頑張りましょうね」

「はいっ!」

「はーい」


穏やかに自己紹介が終わる。

この間、珠姫は一切口を開いてない。

しかし、それに突っ込むものはいなかった。


「ーーん?」

「高知、どうした?」

「いや、あれってーー」


高知の声と指差す方に皆の視線が集まる。

指の向けられた方向には人だかり。


「なによ、チェックポイントじゃない」

「や、そうなんですけど……ちょっと雰囲気違くないです?」

「ええ?」


違うと言われて今度は注意深く綾香は人だかりの山を見る。

確かに先ほど通ってきたチェックポイント5とは違うと分かった。

列が出来ていない。

チェックポイントを囲むように人垣が出来ているのだ。


「何……あれ?」


チェックポイントに近づいて行けば、全体とは言えないが、人垣の中心が見えた。


5人の男女が踊っていた。


綾香たちは呆然とそれを見守る。

その耳に聞いたことのある声がとびこんでくる。


「ほーら、ちゃんとお尻動かさなきゃ分からないよー」


3年の菱目川が手でリズムを取りながら5人の男女に指示を出していた。


「うちの本条に名前知ってもらうチャンスだよ!ほーら、もう一回最初から行くぞーーあなたの名前はなんてーの?」

「わ、私の名ま、名前っは、す、須川……もっ、、やだーーーー!!!?」


一番右端にいた女子がしゃがみ込んだ。

だが、菱目川は容赦しない。


「あれれー?スタンプラリーをすっぽかすほどにうちの本条とお近付きになりたかったんでしょ?せっかくだから名前を覚えてもらえるようにしたげたのにー」

「そ、それはっふ、普通に名前をっ」

「えー?普通に名前を言って覚えてもらえると思ってるの?」

「っ……」

「インパクト大事よー?レッツ尻文字!」

「「「ひいいいーーーー!!」」」





「……なんて酷い」

「あれはむごい」

「でも自業自得」


嬉々として尻文字自己紹介を強要する菱目川から少し離れたチェックポイントではそんな言葉が行き交っていた。

きちんと受付の業務は続けながらである。

そこに綾香たちは人垣を迂回して近付いていく。


「あの……」

「はいはい……おお、高知弟くんじゃね?ようこそ、チェックポイント1へ!」

「え?あ、ありがとうございます。で、失礼ですが、あれは?」

「あれ?ああ、あれ!よし、説明しよう!あれは、とある場所で案内というか、交通整理というか仕事をしていた本条をスタンプラリーをすっぽかして追い回していた1年生に機会をあげるーーと見せかけたお仕置きだよ!!ふふふ、見てごらん。あの本条の無表情。あんな視線に曝されてする尻文字自己紹介ってどんだけって感じだよね!」

「……楽しそうですね」

「えーー?そう見える?こっちとしたらチェックポイントの仕事が滞ってご迷惑だって」

「…………でしたら、もう止めてはどうでしょう?」


結構ノリのいい上級生に口の端を引き攣らせながら忍が提案する。

見ているだけでイタい感じがして見ていられないらしい。

だが、上級生たちは揃って首を横に振った。


「無理。あれは副会長からの指示だからね!」

「そうそう。副会長からの菱目川に直々にきた命令だから」

「指示があったからこそ本条も持ち場戻らず、あんな茶番に付き合ってるんだし」


口々に理由を述べる上級生を前にして、綾香たちは乾いた笑いをこぼす。



(宮ノ内先輩はいったいなにを考えているんだろう……)






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