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あけましておめでとうございます。
スタンプラリーが開始されて30分。
俺の周囲はとても賑やかだ。
「宮ノ内、ポイント5で混雑発生」
「人員整理・誘導班3班が近くにいるはず。至急向かわせてくれ」
「分かった」
「宮、貧血かなんかで倒れたやつがいるって連絡きた」
「救護班!」
「うちら手空いてるよ」
「ありがとうございます。史明、場所は?」
「ーーの中間地点辺りらしい」
「了解。行ってくる」
「宮ノ内ー」
「はい」
「腹空いた!」
「……あっちに用意してあるんで、勝手に摘んでください。ついでに各ポイントにも配ってきてください」
「ゲッ」
「お願いしますね?」
「わ、分かった」
ここは今回の作戦の本部。
次から次へと各チェックポイントなどから連絡が入る。
俺の役目の大半はそれを捌くことで、高知が表に出ている今、俺は裏方の中心というところだ。
連絡が途切れたところで、目の前に広げている周辺マップに必要な情報を書き入れ、用済みになった情報を消していく。
状況が刻一刻と変化していくので、間違った指示を出さないためにこの作業が結構重要だ。
俺の頭の中では情報の整理が出来ているのだが、緊急事態で本部を離れたときのために他のやつらが見て分かるようにしてある。
「宮ノ内、本条からヘルプ」
「……本条先輩からですか?」
「そ」
俺の下で働いてくれている先輩のひとりが携帯を片手に近寄ってきた。
「もしもし、宮ノ内です」
『本条だ』
「何かありましたか?」
本条先輩の声が多少ブレて聞こえる。
移動しているみたいだ。
いや、移動なんて生温い。
走っているとしか思えない音が携帯から聞こえてくる。
ついでに甲高い複数の女子の声と、男子の声も……ーー。
『先ほどから数名の女子と男子に付き纏われて困っているんだが……』
「……注意は」
『したが効果が今ひとつだ』
「そうですか……」
『撒いた方がいいだろうか?』
「いえ、下手に撒いて迷子になったら困ります、今は。ーー菱目川先輩のとこ……チェックポイント1に向かってください」
『今はーー?……菱目川のところに行けばいいのか?』
「はい。菱目川先輩にはこちらから事情を説明しておきますので」
『分かった。手を煩わせてすまない』
「いえいえ。ではよろしくお願いします」
通話を切る。
貸してもらった携帯を先輩にお礼を言って返して、自分に配布されている携帯で菱目川先輩に配布されている携帯のナンバーを呼び出して電話をかけた。
数コールして繋がった。
『ほっほーい。チェックポイント1担当のひっしーだよん☆』
「……宮ノ内です」
『あれま!ごめんごめん。ちょっとテンションおかしくなってた』
「いえ……先ほど本条先輩から連絡がこちらにありました」
『本条から?』
「はい。どうも1年の女子と男子に付き纏われて困っているようです」
『本条に付き纏うとか……やるなー』
「……現状、撒かれて他の仕掛けに引っかかれても困るので、本条先輩にはチェックポイント1に向かうように指示を出してます。菱目川先輩、よろしくお願いします」
『俺が対処するのね?ま、連絡が来る時点でそういうことだよなーーで、どのプランで対処するべき?』
「プランD辺りで良いかと」
『え?!プランD使っちゃうの!?』
「今は宿泊訓練中ですから、やるべき事をせず横道それまくりの生徒にはそれが妥当かと。ーー違いますか?」
『っ!わ、分かった!火急速やかに本分に戻す!!任せてくれ!』
「よろしくお願いします」
通話を切る。
視線を辺りに彷徨わせれば、こちらに視線が集中していた。
無言で頷くと、皆神妙に頷いてくれた。
「それぞれ順番に休憩を取ってください。まだまだスタンプラリーは続きますから」
「「「了解!」」」
今のところ予想範囲内ーーこのまま何事もなく終わればいいんだがな……。