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「行事を増やす……?」
篠川の復活は結構早かった。
やるな。
これはやはり生徒会に欲しい人材だな。
今度打診してみるかな。
「ああ。こんな事がしてみたいと言ってくれれば計画しよう。で、俺が出来ないことは、学校外に関してくることとか、個人的すぎるものかな。誰かと付き合いたいから付き合わせろとか言われても感情が入ってくるものは俺にはどうしようもない。ーー紹介くらいはしてもいいが」
1年を置き去りに高知は話を続行する。
何人が続きの話をきちんと聞けているんだろうな。
「質問」
「あ?忍か……どうぞ」
忍も復活していたらしい。
高知とのことがあるが、忍も生徒会にいたら助かるな……。
「そこまで大事だとちょっと皆分からないと思うんで、もっと身近で出来ることとか教えてくれーーください」
……兄弟だしな。
言い直したし、良しとしよう。
「あー……学食のメニューを増やせるように掛け合ったりーー」
「もっと身近」
「……今日のキャンプファイヤーに今日手伝いに来ている誰かを参加させたり?」
「身近は身近はだけどなんか違う……」
……目の前で兄弟掛け合いが始まった感じだ。
なんかちょっと微笑ましいぞ、お前ら。
しかし、周りは俺とは違った反応を見せた。
「せ、先輩がキャンプファイヤーに参加っ……っ!!」
「じゃ、じゃあ、本条先輩とかっ!!」
「高知生徒会長とっ!!?」
ははは、本条先輩人気だなー。
高知は……高知だしな。
「ーー泊まりもあり?」
その声は騒ついた周囲を物ともせず辺りに響いた。
すぐに辺りは静かになる。
皆の視線は声を発した人物へ。
「泊まりも、ありですか?」
かろうじて敬語になおっていた言葉に感心した。
それどころでもないのに。
「あ、アリです」
高知の声がちょっと遠く聞こえた。
皆の視線を一身に集めた人物は微かに微笑んだ。
「皇ちゃん、頑張る」
手を前でぎゅっと握って言う珠姫は正直言ってとても可愛らしかった。
言っている内容は置いといてな。
「スタンプラリー開始!」
遠山先輩の声が響くと同時に1年が我先にと走り出したのを俺は見送った。
「いやー、宮ノ内くん愛されてるねー」
「星埜先輩……」
ジトッと見つめる。
「ふふ、ごめん。訂正するよ。筒井さんは皆に愛されてるね」
星埜先輩の言葉に深々とため息が落ちる。
先ほどの珠姫の発言と表情に1年の半数がやられた。
やられてないのは、角度的に珠姫の表情が見えなかったやつらとほか少数だ。
篠川や忍は言うに及ばず、他のやつらまで珠姫のためにMVPを取ると宣言してきたのだ。
そしてそれが起こす結果巻き込まれるのは、俺だ。
先生方にも肩を叩かれた。
「泊まり用の荷物持って来てもらえるように家に電話するか?」
いらない気遣いですよ、先生?
てか、泊まるの前提ですか?
俺たちは負ける気無いですよ?
「俺も行ってくるわ」
幽鬼に成り果てた男がゆらりと立ち上がった。
高知だ。
「おい、大丈夫なのか?」
「……おう。珠姫ちゃんに追いかけてもらうんだ」
「……」
フラフラと集会所を出て行こうとする高知をひっ捕まえた。
「高知、お前はなんだ?」
「皇?」
「お前は桜ヶ丘高校のなんだ?」
「!」
騒動に巻き込まれるのは正直嫌だ。
しかし、仕方が無いことだとも割り切っている。
高知と友人である限りついてまわるものだと分かっているからな。
割り切っているが、今のこいつ相手じゃ割り切りたくなくなる。
「……生徒会長サマだ」
高知の目に強い光が戻ってくる。
高知は桜ヶ丘高校の生徒会長だ。
大勢いる生徒の中のトップなのだ。
しっかりとそれを1年に示してきて欲しい。
色ボケしていようと、無様な姿を晒さないで欲しかった。
「生徒会長サマが負けるなんて?」
「あり得ない!」
「1年共にトップの実力、見せつけてきてくれ」
「おうとも!!」
先ほどとは打って変わって高知が元気に出て行く。
今度はその動きを止めはしなかった。
「面倒くさい奴だ」
息を吐き出す。
今度はため息じゃ無い。
「宮ノ内は希代の操縦者だね」
「よっ!調教師!!」
「……先生、調教師はどうかと」
……言いたい放題だな。
チロリと周りを見る。
星埜先輩に先生方。
そして遠山先輩。
辺りは穏やかな雰囲気が広がっていた。
「僕たちも行こうか」
「大きな怪我がないように頑張るか」
「先生たちは見物させてもらうよ」
「……了解です。ーー地点が見物するのに適してますよ」
「おお、そりゃいい」
こうして後に語り継がれることにもなる宿泊訓練3日目スタンプラリーは開始したのだった。