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納得がいかない。
どうして俺が珠姫を引き留めたことになっているんだ。
そこらへんのことを篠川とじっくり話がしたいが、そんな時間が残念ながらなかった。
今は家ではないし、もうすぐレクが始まるのだから。
「珠姫、行ってこい」
「うぅー」
「……」
……お前はいつから獣に成り下がった。
唸られても困るぞ。
…………まあ、珠姫が何故こんな状態なのかは分からんでもない。
分かり切ったことだが、2日ほど離れていたからだろう。
入学してからこっち、1日顔を合わさないなんて状況がなかったし……な。
その前までは長いこと離れていただろうって突っ込まれそうなもんだが、状況が違う。
昔は強制的な別れだった。
俺の意思も、珠姫の意思も間に1ミリとて入っていなかった。
そして、何の切っ掛けかは分からないが、俺たちは再会を果たした。
結構な間離れていたにもかかわらず珠姫は珠姫で、大きくなってはいたが基本は変わってなかった。
だからと言って、今のこの状況が許されるわけではないんだけどさ……さてとーー。
「っ……」
腰に回した手に力が入る。
無理やり剥がそうと考えたのがバレたみたいだ。
バレてしまったら仕方が無い。
不意をつけばあっという間に剥がせたが、こうなってしまえば結構苦戦するのだ。
珠姫も同じ道場に通っていたから、力の逃がし方とかイロイロ習得しているんだ。
こう言う時は本当に厄介だな。
「珠姫ー」
篠川が情けない顔になっていた。
……仕方が無い。
珠姫を腰に引っ付けたまま俺は足を動かす。
ズルズルと引きずられる珠姫。
しかし、知ったこっちゃない。
途中で篠川の腕も掴んで進む。
進む先は呆気にとられた忍がいる場所だった。
忍の他に男子1人と女子2人。
2人分空いた形で円状に座っている。
篠川を空いた場所で離した。
戸惑うやつらを放っておいてあと1人分空いた空間に俺は座り込んだ。
間をおかずに珠姫が俺が胡座をかいた場所に座り込んだ。
「篠川、座れ」
「は、はいっ!」
「あ、あのっ」
「忍」
「!?はいっ!!」
「助言はしないからな」
「!」
言うだけ言って、俺は黙り込んだ。
静寂が辺りを包み込む。
話し合う声が途切れた。
て、ダメじゃんか。
「あとーー8分」
時計を見つつ呟く。
思いの外、辺りに声が響いた。
ーーーー?
響くってどうよ?
周りを見回す。
見る端から目を逸らすこと逸らすこと。
……
…………
「ーー半分も回れなかったなんて情けない結果を出した班はトラック50周」
ザワリ。
逸された視線が一斉に戻ってくる。
俺は辺りを見渡して、にっこり笑ってもう1度口を開いた。
「半分も回れなかったなんて班は後日トラック50周な。先輩方の胸を借りておいて、情けない結果なんて出さないよな?」
後から高知にあの笑顔が悪魔の微笑みのようだったと言われたが、そんなこと俺はしらん。