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バスで移動して40分程、目的地が見えてきた。


日程表を見る限り1年生はもう活動し始めているはずだ。

バスが駐車場に着き、下車すると、そこには1年生の学年主任である小川先生が待っていた。


「おはようございます」

「おはよう。今日はよろしく頼む!」


笑って出迎えてくれた先生とともにバスから離れる。

引率についてきた生徒会顧問に後は任せて、様子を聞く。


「まずまずだな。結構団結して行動する場面が出てきた。1年の高知が結構率先して動いてるぞ。さすが生徒会長の弟だな」

「ありがとうございます。ですが、私の弟としてではなく、個別に扱ってもらえると嬉しいです」

「ああ、すまんな。それはもう別で扱ってるから心配するな」

「はい」

「あとは、(くれ)がいい感じだ。高知の再来とは言わないが、なかなかのリーダーシップぶりを発揮してる」

「それは要確認ですね」


呉か……初めて聞く名だ。

使えそうなら生徒会にスカウトだな。

来年の生徒会のイイ人材になるかもしれん。





「1年生たちは?」


高知が代表して聞く。

スケジュール通りなら朝ごはんも済み、次の行動への準備時間のはず。


「それならもう集会室で整列済みだ。お前たちが来るのを今か今かと待ってる」


先生の言葉に高知が頷いて後ろを振り向く。

バスから降りた2、3年生たちに手を振った。


「予定通りに」


言葉短く言う高知に頷いて、それぞれに必要なものを手に散会した。


……どこの組織なんだろうな。


無駄口ひとつなく去っていく今回の作戦(?)メンバーたちに、俺はきっと遠い目になっていたことだろう。

しかし、そんなことを思う俺もメンバーの中の一人。

いや、それどころか中心人物の一人か……。


「よし、皇。俺たちは集会室に行くぞ」

「……分かった」


生き生きとした高知の後ろについて行きながらおれはこれからのことに思いを馳せるのだった。












集会室で待っていた1年生たちにこれからするスタンプラリーについて説明した。

初々しさの中にも確実に我が高校の理念が息づいてきていることを実感出来るような目の輝きにため息を押し殺しつつ、俺は高知の斜め後ろに陣取っていた。


「ーーーでは、スタンプラリーのためのグループを作れ。5人から10人までで。出来たら俺の右側にいる星埜先輩のところへ報告、遠山先輩にスタンプラリーの台紙をもらえ」

「はい!」


いい返事だ。

やる気満々で心配だ。

負傷者が出ないことを願うばかりだな……救護班にもう一度確認しておこう。


「準備ができたグループは、皇…宮ノ内のところへ行って地図をもらって作戦会議だ」

「作戦会議?」


高知の言葉に1年生たちがそれぞれに首を傾げているのが見えた。

まあね……確かにいきなりそんなことを言われても駆け出しの1年生たちでは戸惑うのも分かる。


だが、これは我が高校の行事の大部分でとても重要になってくる時間だった。


作戦を立てぬ者に勝利無しとはどの先生の言葉だったのか……。


お祭り高校と毎度俺は言うが、本当にこの学校の生徒たち(教師陣もだが)は祭り事に貪欲なのだ。


祭り事に貪欲。

それは勝利に貪欲と言い換えてもいいかもしれない。

みんなでワイワイ楽しむことはそれはもう大好きなのだが、それと共に、勝負となれば目の色が変わる。

揶揄じゃない。

本当にそうなんだ。

去年1年で俺は思い知らされた。

そして、どんどんそれに感化されて同じように目の色を変えていく同級生をすぐそばで見ていた。

遺憾ながら、ものによっては自身に降りかかりそうになった火の粉を振り払うために俺も同輩になった記憶がある。


……例に漏れず高知の所為だが。


でだ。

今回のスタンプラリーにはきちんとチェックポイントの地図が渡される。

ぶっちゃけ、地図が渡されるなんてとても優しい措置だ。

2、3年でやるとしたら確実に地図など存在しないからな。

チェックポイントの数だって台紙を見ないと分からないことだろう。


……いや、それでさえフェイクの可能性が高い。


宿泊訓練だからこその地図というわけだ。

これからの下地作りというか……。

ああ……今回の宿泊訓練で何人の1年生が変わってしまうのだろう。


俺的には、ずっとそのままの1年生でいて欲しいと思うのだが、はっきり言って叶わぬ願いだ。



……さて話を戻そう。


作戦会議だ。

何を会議するのかであるが、それはどこから攻略するかなどのチェックポイントの周り方を話し合って欲しいわけだ。

俺が持っている地図には実はオマケが付いている。

オマケというのは、各チェックポイントの情報のこと。

1番のポイントにはどの先輩がいて、どんなゲームが待っているかなど、本当に親切なほどに情報が書かれている。


その情報をどう活用するかがキーポイントだってことだ。

集まったメンバーによって得意不得意あるだろう。


そんな時、得意な分野から攻略していって不得意なもののために時間を作るか、それともそれと反対に不得意の分野から攻めるなどそれぞれ作戦を考えるわけである。


……と、1年生を育てるための親切設定だと主張してみたが、じつはここにひっそりと罠も隠れていたりする。


罠というのは先ほど言った情報だ。

チェックポイントごとのゲーム内容は確かに使える情報だが、上級生たちの名前が攻略に必要であろうか?

そりゃあ、その先輩の性格などを知っていれば少しなりとも使える情報になるかもしれない。

しかし、まだ入ってきて間もない1年生が各先輩たちの性格などを知っているはずがないのだ。


では何故その情報が載っているか。

それは、1年生をおびきよせるためだ。

今回のスタンプラリーのために呼んだ2、3年生の中には、1年生に人気の人物が結構な数集められている。


例えば本城先輩だ。


さて、考えてみよう。

気になる先輩たち。

日々の学校生活では交流することなどあるかないか。

チェックポイントに行けば確実に関わることができるーーーーもうお分かりだろう。

ミーハーな者たちはこの情報を見てどうするだろうか……考えるまでもないだろう。


うん、どれだけのグループがクリアすることが出来るんだろうな?

通常(・・)のスタンプラリーを。


そう、通常のだ。


忘れてはないよな?

このスタンプラリーには隠されたチェックポイントがあることを。


1年生に勝機があるのか?


上級生たちは本気マジだ。


本気で、挑んでくるだろう。


勝利に貪欲。

つまりは、ゲームのための協力者であろうと、負ける気がないということなのだ。

1年生に華をもたせようなどと思う者など一人としていない。

これは教師も分かっているだろう。



……1年生は叫んでもいいと思う。


『大人げねぇ!!?』と。



いつもお読み頂きありがとうございます!

少しでも楽しんで頂けてると嬉しいのですが。


最後の一文に思うとこありですが、最適な文が思いつきませんでした……。

思いついたら変えようかと思います。



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