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宿泊訓練3日目の朝。
「いってらっしゃい」
「いってきます」
何時もの朝と同じように制服姿で家を出た。
学校が近いとは言っても、さすがにもう中学生じゃないからジャージでの登校はしない。
一応、学校の顔でもある生徒会の一員でもあるわけだしな。
集合場所は学校の体育館だ。
すぐに出発はせず、体育館にて今日の細かな動きについての説明・確認をしてからとなる。
どんなことをするかなどはきちんと説明済みだが、スムーズに動くためにはそれだけでは足りないってことを俺はこの高校に入ってから学んだ。
「ーーーというわけで、全体の流れと、それぞれの動きについて書かれた用紙を渡すので、それぞれ確認してください」
役どころごとに分かれてもらって進行表を渡していく。
渡す端から視線を紙に落として読み込む同級と先輩方の姿は、これぞといった貫禄を醸し出している。
もうすっかり桜ヶ丘高校の校訓が染み付いた感じだ。
『祭りには全力投球すべし』
んなアホなって感じだが、ちゃんとこれもこの学校の校訓のひとつなのだ。
楽しむためには準備を怠らず、キッチリと。
1年もしないうちに教え込まれるものだ。
「質問があれば呼んでください」
高知の声が体育館に響く。
何時ものおちゃらけた感が抜けて、それはもう女子が騒ぎそうな男ぶりだろう。
今回の協力者である女子たちがかなりの数頬を染めているのが見える。
いつもこうならーーいや、たまに見せるからいいのか?
これが俗に言うギャップ萌えなのかもしれない。
バカなことを考えつつ見ていれば、名前を呼ばれる。
どうやら質問のようだ。
俺は呼ばれるままに移動しては、説明を重ねた。
「では出発します。バスは裏門の方の駐車場に待機しているので、移動してください」
今回使うものを運んでもらう指示を出しながら人の流れを見ていれば、高知と遠山先輩、それに星埜先輩が近づいてきた。
はて?何かまだ確認することでもあっただろうか。
「何かあったか?」
まずは高知に聞いてみるが、先ほどの人を魅了するような雰囲気は霧散し、何やらブスリとしていた。
……本当に何があった?
「フフフ……」
楽しそうに笑う星埜先輩に視線を合わせたが、楽しげに笑うばかりで教えてくれない。
いつものパターンで、近付いてきた最後のひとり、遠山先輩に視線を向けたが、困ったように笑われた。
「一体なんなんだ」
訳が分からずため息ひとつ。
それに笑みを深めた星埜先輩がやっと口を開いた。
「いや、質問が宮ノ内に殺到したなぁっておもって」
はあ?
失礼にも口から出そうになった言葉を飲み込んで、心の中で吐き出す。
高知に視線を戻せば相も変わらずブスくれた顔。
訳が分からん。
ここからが始まりなのにと高知の頭にチョップを落とす。
くぐもった悲鳴は無視だ。
「俺は何だ?」
「……宮ノ内様ってか?」
「違う!」
「んぎゃ!?」
もう一度チョップをくれてやった。
「俺はお前の補佐だろうが。細かなことは俺に任せてお前は先頭で指揮を振れ」
「……」
俺の言葉に高知が黙り込む。
納得したか?
そこまで細かいことなど高知がやる必要などないのだ。
この学校では、生徒会長の補佐が副会長の仕事みたいなものだ。
高知がテンションをあげれば、他の生徒もテンションを上げる。
生徒会長になるやつなんてそんなやつばかりだ。
俺の見解では生徒会長なぞ扇動係だ。
それをフォローして実行するのが会長以外の生徒会役員の仕事だと思っている。
フンっと高知を見れば真っ赤な顔。
……真っ赤な顔?
なんじゃそれ???
「っ!……くっそ、や、やればいんだろ!やれば!!」
「あ?あ、ああ」
真っ赤な顔ながらもやる気の戻った顔でバスに向かう高知を唖然としながら見送る。
横で爆笑する星埜先輩。
「……先輩?」
「う、うん……今年の生徒会、っ!や、役員になっ、て良かったよ」
目尻に涙を溜めながらそんなことを言われても嬉しくないですよ?